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デュラント伯爵は、ちょっと口角を上げて、


「こちらこそご無沙汰しております、スタイヴァサント夫人。お変わりありませんか?」


と、尋ねてくださいました。


「お陰様で、恙無く過ごしております。それもこれも、伯爵に、学校ではカイルさんを、家ではパトリックさんをと、お心遣いいただいたおかげですわ。ありがとうございます。」


警護の方々をご紹介いただいたお礼を言っていると、その様子を、なんとも言えない余裕の微笑みを浮かべながら見ている女性にどうしても目がいってしまいます。漆黒のウェーブがかった髪を片方の肩に垂らし、胸元の大きく開いた黒衣を着ています。微妙なところにレース使いがされていて、見えるか見えないか、いや見えてるな、というかなり挑発的なドレスです。


「お礼をいただくには及びません。パトリックもカイルもスタイヴァサント家とご一緒出来るのを喜んでいますよ。」


デュラント伯爵は、私の視線に気がついて、女性を紹介し始めました。


「スタイヴァサント夫人、こちらは、ヘンリエッタ・ ファーミングヴィル辺境伯夫人です。」


あら、ファーミングヴィル夫人といえば・・・


「私の姉です。ファーミングヴィルに嫁いで、向こうでずっと暮らしていたのですが、先日来、王都の辺境伯の別宅に滞在しております。」


ファーミングヴィル夫人は、一層笑みを広げながら、


「お初にお目にかかります。辺境伯などとまどろっこしいですわね、ヘンリエッタとお呼びくださいませ。弟から奥様のご活躍は聞いておりましたので、かねがねお目にかかりたいと思っておりましたの。」


そして、そばに立つ、リリアちゃんと先生に目を向け、少し首を傾げます。おっと、紹介しろという合図ですね。


「こちらは私の娘のリリアと、ガヴァネスのアン・マーティアン先生ですわ。」


先生の視線がなぜかちょっと厳しいですね。


ファーミングヴィル夫人は、二人にもすこし目線で挨拶した上で、私の方に改めて向き直ります。


「スタイヴァサント夫人は、最近ご主人を亡くされたと伺いましたわ。心よりお悔やみ申し上げます。私も5年ほど前に主人を亡くし、未亡人ですのよ。

主人を亡くして以来、領地の運営に四苦八苦しておりまして、なかなか王都に来る機会もございませんでしたの。この度漸く訪れることができましたのよ。

オリヴァーから、奥様は、帳簿や数字に詳しく、領地経営にも長けていらっしゃると聞いておりますわ。是非ともお話をうかがわせていただきたいわ。」


と、おっしゃり、デュラント伯爵に、「ねぇ?」と言わんばかりに微笑みかけます。


デュラント伯爵も、これまた、微笑みながら、


「姉は領地から久々にやってまいりましたので、さしたる友人もおりません。よろしければ、是非。」


とおっしゃいました。私に特に異存はございません。


「もちろんですわ、ヘンリエッタ様。いつでもスタイヴァサントにお出でくださいませ。」


と、お返事いたしました。


お二人は、私たちに挨拶を済ますと、伯爵のエスコートで、ホールの方に向かわれました。ファーミングヴィル夫人が向きを変えた時に、かすかな麝香の香りがしました。


ああ、これだ。


ゆっくりホールに向かった私たちの声が届かなくなるぐらい、二人と距離が開いたところで、先生が小声で、


「まあ、女性の友人は少ないかもしれませんね。でも男性の友人はいらっしゃるのではないですかね。」


と言いました。私は先生に、


「ローランド殿下のところで見かけた女性?」


と、確認します。先生は、


「そうです。」


と、短く答えました。


リリアちゃんが、ぼそりと


「同じ黒衣でも、デザイン次第で随分印象が違いますね、お母様。」


と言いました。言われんでもわかっとるわい。


「余計なことを考えずに、この場をうまく利用して、相関図を紐解くことに集中しましょうね。」


「はーい。」


リリアちゃんのお返事が最近ちょっと長いような気がするのは、気のせいかしら。何はともあれ、戦闘開始です。


しかし、ダンスの行われるホールに足を踏み入れた瞬間、すっかり存在を忘れていた、義理の妹に捕まりました。


「ヴァネッサ!貴方ったら、スタイヴァサントの名前を貶めるつもり!?」


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