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先生から緊急連絡です。モーガン伯爵令嬢が、今度の学園親睦ダンスの際、婚約破棄を狙っているとのこと。ローランド殿下に、どのように婚約破棄を進めたら良いか、相談があったそうです。しかも秘密裏に。
どうせ相談するなら、スタイヴァサントにすればよいのに、そこはそうもいかないのでしょうね。それにしても随分手荒なことをするものです。
ホロウィッツ子爵に大きな落ち度がない限り、この婚約破棄は、王太子妃をねらったモーガン家の策略とみなされ、違約金などモーガン家からまた巨額なお金が出て行くでしょう。追徴課税の支払いを前にして、なぜこのように切羽詰まった手を打つのでしょうか?
しかも、先生とリリアちゃんによると、ナタリー嬢は、取り巻きを作るのにも成功していない、ということです。まあ、彼女の性格もあるのでしょうが、周りの貴族の方々が、モーガン家に魅力を感じない、つまり、お金がないと見ているのでしょう。シビアだわ。
ひょっとしたら、モーガン伯爵家は、ナタリーの暴挙に加勢していないかもしれませんね。未発達の前頭葉のなせる技かしら。
パトリックさんとジュリアちゃんの調査によると、学校に子供のいない、なおかつ未払いの税金のある貴族、15件のうちその半数近い7件が、すでに借金の申し込みを商会にしているとのこと。残り8件は、沈黙を守っているということですが、彼らが何の策もとっていないということは驚きです。何らかの当てがあってのことかしら。
パトリックさんは、動いていない貴族たちは、比較的新興の子爵や男爵で、なおかつ若い家族が多いことを気にしていました。だからこそ未就学児童が多かったようです。
不穏ですね。モーガン伯爵の動きだけで、貴族の勢力図を判断すべきではないのかもしれない。彼には不満分子をまとめる力はなく、別の人たちが新たなグループを作っている可能性がないわけではありません。
その可能性も考慮した上で、さて、学園親睦ダンスを見学に行きましょうか。
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学園親睦ダンスは、ダンスを実地で試すだけではなく、社交を覚えるための大切なイベントです。それゆえ、学生だけではなく、その家族や貴族の親類もなるべく多く参加し、生徒と社交的な意味でおつきあいするよう学校に奨励されています。貴族のみなさん、暇なら貴族の子弟を鍛えてくれ、ってことですね。
したがって、今回も数多くの貴族の方々が参加しています。スタイヴァサント家は、それらの貴族の方々の様子をなるべく見逃さないよう、全員参加です。私や先生はもちろんのこと、パトリックさんも行きます。それどころか、裏方のお手伝いとして、バートさんとエイミィさんも来ています。(もちろん先生が手配しました)
私が先生、リリアちゃんと学校に到着し、会場であるホールに向かっていると、見覚えのある後ろ姿がありました。デュラント伯爵です。
パトリックさんの就職のことだけではなく、カイル君を護衛につけてくれたことのお礼を申し上げようと、声をかけました。
「デュラント伯爵、お久しぶりでございます・・・」
振り向いた伯爵の影になって見えていなかった人が、ようやく目に入りました。
デュラント伯爵がお話になっていた相手は、黒衣の妖艶な美人さんでした。
うわ、話しかけるタイミングを間違えちゃったかしら。




