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思いの外早くにローランド殿下からは返事が来ました。スタイヴァサントの計画に参加するということです。返事を持ってきたのは、フィリップ殿下です。最近は、私の嫌味にもめげず、頻繁にスタイヴァサントに出入りしています。

今日もちゃっかりリリアちゃんのお見舞いをしていきました。


ぐぬぬ。


フィリップ殿下には、ローランド殿下宛てに指示を持って帰って(注:記憶してもらい、書面にはしてません)もらっています。


1、ローランド殿下に愚痴を言ってくる貴族たちには、相手を鼓舞させるようなことを言っておくこと。近々行動起こすよ、ぐらいのノリで。


2、マディソン国留学前に、当国の学校を卒業するため、学校に一時的に戻れるよう、陛下と交渉する。


3、陛下のみに、この行動が将来的に陛下のためになることを目指していることを耳打ちしておくこと。


ローランド殿下の性格(単純な頭)を考えると、与える情報はこれぐらいかしら。


これができることを前提に、リリアちゃんとローランド殿下が通う学校で事を仕掛けることにします。すでにリリアちゃんに対する嫌がらせが行われているということは、貴族のお父様たちの意向が、子供達にも伝わっているということでしょう。

大人の犯罪はなかなか尻尾を出しませんが、子供は前頭葉が発達しきっていないので、長期の視点に欠け、結構な確率でボロを出すのです。懐かしのロヴィーナ嬢がその典型ですね。我々がつけ込むとしたらここです。


まずは、来週早々登校する気のリリアちゃんには、先生をつけましょう。リリアちゃんがこれ以上嫌がらせを受けるのもゴメンです。


先生とリリアちゃん、パトリックさんを書斎に呼びます。


「貴族たちの振り分けプロジェクトは、リリアの学校で行います。すでにリリアが嫌がらせのターゲットになっていることも考えると、子供たちは親の意向を汲んで行動しているのだと思います。

その場にローランド殿下を投げ込むことによって、誰がローランド殿下を旗頭にして王家に反旗を翻そうとしているのか、誰が王家に取り入って、税のごまかしを見逃してもらおうとしているのか見極めましょう。」


リリアちゃんと先生は頷いています。パトリックさんは、


「皆さんに危険はないのですか?」


と、聞いてきました。


「命に関わるような事件を犯すとは思えませんが、念のため、パトリックはルディの身辺警護の強化をお願いします。学校にいる間は、周りにいる子供達もまだわずか10歳ですから、リリアのように嫌がらせやいじめがあるとは思えません。ですから学校からの行き帰りを注意していただければ大丈夫かと思います。ルディが学校にいる間にやっていただきたいことがあります。先生と手分けしてで結構なのですが、このリストにある・・・」


といって、リストを取り出します。リストには、税金をごまかしていたと思われる、約50件の貴族の名前が書いてあります。


「・・・貴族のうち、子供が学校に通っていない人たちについて、商会や質屋などを通じて、追加課税を払う準備をしていないか、調べていただきたいのです。たとえば、借金の申し込みをしているとか、宝石などを売ったりして、お金の工面をし始めていないか、その調査ですね。リストのこの印がついている家族には、学校に通う子供がいません。」


パトリックさんが、素早く印の数を数えます。


「・・・12、13、14、約15件というところですね。数はあまりありませんが、貴族相手の金貸しは、かなり口が固いので、手こずるかもしれません。少々お時間をいただけますか?」


「もちろんです。」


眉をひそめて考えていた先生が、ここで手をあげました。


「奥様、その調査は、私ではなく、ジュリアに聞いたほうがよいかもしれません。」


先生の妹のジュリアちゃんは、帳簿がつけられることもあり、ウッドベリー商会に引き抜かれ、現在は、商会で修行中です。本人が女性商人を目指していることもあり、生き生きと仕事をしているようです。


「私は、学校の方に集中するのはいかがでしょう。幸い、先生方とも繋がりがありますし、ひょっとしたら、学校で何かしらお仕事のお手伝いをするという名目で生徒たちを見張ることができるかもしれません。リリアさんやローランド殿下の身辺も気にしたほうがよいかと思いますので、そちらの方がよいのではないでしょうか。」


それはそうかもしれません。


「そうですね、先生、学校に潜り込めるか、試してみていただけますか?ジュリアさんには、くれぐれも無理をしないようお伝えください。貴族の出入りがあるかどうかだけでも良いのです。」


「はい、了解いたしました。」


先生がこう言っているということは、勝算があるのでしょう。

ここでまた、パトリックさんが声をあげました。


「いや、身辺警護となると、先生にお任せするわけにはいきません。誰か適任者を見つけて、リリアさんや殿下の警護にあたらせます。」


「誰か御心あたりがあるのですか?」


という私の問いに、パトリックさんは、にっこり笑って


「騎士団に入りたくて修行中の学生がいるはずです。その中からこれぞと思う人物をデュラント伯爵にご推薦いただきます。」


と、言ってくれました。

ああ、それで思い出しました。


「パトリック、スタイヴァサントに来ていただいて非常に感謝しているのですが、転職は貴方だけの意思なのですか?ひょっとして、私たちに危険がないよう警護してくれと、伯爵から言われたためではないのですか?」


だとしたら、事件が落ち着いたらパトリックさんはいなくなってしまうかもしれませんね。ルディ君がさぞかしがっかりすることでしょうし、心算はしておかなくては。


「伯爵がスタイヴァサントを気にかけていて、このような事態になることを懸念して私に話を持って来たのは確かです。しかし、転職自体は私の希望です。」


パトリックさんがニヤッとします。


「スタイヴァサントは、面白いことに事欠かないですから。」


そうですね、日々刺激的なのには同意します。


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