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「あの、一体なんのお話でしょうか?財務長官?財務省で働くのではなく? 」


そもそも女性が役職につくなど、この国では全く考えられません。それが長官ですって?


「いえ、推薦したのは、財務長官の席です。女性が誰か男性の下で働くとなると、嫌な思いをされることも多いでしょう。思い切って誰にも指図されない、長官の地位についていただきたかったのです。」


無謀すぎる。そんな気持ちが思い切り顔に出ていたのでしょう。殿下の反論が続きました。


「スタイヴァサント夫人であれば、十二分にその能力をお持ちです。貴方なら男性長官以上の仕事をされると見込んでいます。

兄上と私は、ずっと、この国の女性の地位を上げるためにも、まずはその先陣を切る女性の役職者を出したいと画策してきました。今回は陛下に阻まれましたが、諦めてはいません。」


いやだからなぜ、本人の意思を確かめないのよ!別に嫌ではないけれど、ちょっぴり嬉しいけど・・・苦労が多そうです。うーん、複雑。


「リリアさんには、手紙で、こういったことを考えているとご相談していました。リリアさんも、お母様が、女性として初めて役職につく可能性に、非常に期待していたのです。当然、うまくいかない可能性もあるので、様子を見てからお母様にはお話するとおっしゃっていましたが。」


すると、今まで静かだった先生が、黙っていられなくなったのか、声をあげました。


「リリアさんが、お母様に嫌がらせのことを何も言わずに耐えていたのは、いつの日か奥様がこの国の女性の先頭に立ってくださることを期待したからではないのでしょうか?その足を引っ張るようなことはしたくはなかったのでは?

私とて同様です。もし奥様がこの国の女性のリーダーとなられるのであれば、全力でサポートしますわ。」


わわわ。ちょっと待ってくださいな。


殿下も勢いつく先生を押しとどめるよう、説明を続けます。


「スタイヴァサント夫人のお力は目の当たりにしましたので全く疑っておりません。しかし、この国の女性の地位を変えていくのは、並大抵のことではありません。陛下にその強い意思がありませんから。陛下は、今のままで国を運営していくことを良しとしています。それゆえスタイヴァサント夫人の長官就任の話も一笑に付されました。」


まあ、そうでしょうね。君たち段取りがなってない。女性の地位向上など、今までのこの国の歴史から考えて、そんなに簡単に進められるものではないでしょう。


「確かに陛下にそのおつもりがないのであれば、実現するのは大変困難でしょう。私のことを候補に考えていただいたのは、大変光栄ですが、少なくとも、事前に根回しをした上で、いろいろなところで下準備をしなくては無理な話かと思いますわ。」


ため息をつきながら殿下が続けます。


「準備は徐々に進んでいたのです。私は兄のために、マディソン王国のマーガレット王女との婚姻の話を進めていました。ご存知の通り、マディソン王国は女性官僚も多く輩出しており、女性の地位もしっかりと確立されています。

マーガレット王女自身も非常に見識の広い方です。女性の地位の低いタッパン王国に輿入れされることをためらっていらっしゃったのを口説き落として、タッパンを変えていくために王妃となっていただくようお願いしたのです。

ようやく兄上との婚約が結ばれたばかりだというのに・・・」


悔しさを一身に背負った殿下は、言葉を続けることもできません。私は恐る恐る、


「エドワルド王太子と王女との婚約に何かあったのですか?」


と、お尋ねしました。


殿下は、


「まだ、解消にまでは至っていません。しかし、宰相は、国内の貴族との関係がこじれてしまった以上、外国から王太子妃を迎えるのではなく、国内の有力貴族の娘を王太子妃に迎えるよう陛下を説得しています。

もしそんなことになれば、私たちの目指していた女性の地位の向上は、滞るどころか後退するでしょう。残念ながら、国内の貴族の令嬢たちは、女性の地位向上に対する意識はまだまだですし、王太子妃候補になったら、お妃教育で精一杯でしょう。

マーガレット王女がタッパン国に来なければ、この国の女性環境の進展は望めません。」


と、いって、唇を噛み締めました。


意外ですね、殿下たちがここまで女性問題に関心が高いとは。殿下たちに対する認識を改めなくては。


「それほど前から殿下たちが女性の地位向上に配慮していらっしゃるとは存じ上げませんでしたわ。」


私はほとんど謝っているかのように殿下に話しかけました。


殿下は少し遠くを見つめるように返事をされました。


「女性の地位向上は、私たちの母の願いでした。王妃であった母はそのために奔走し、志半ばで倒れました。

私たちの母は、夢破れて憤死したも同然なのです・・・」


こちらを向いた殿下の口元には、心なしか微笑みが浮かんでいます。


「母は、王妃に望まれた際、王国を、そして王国の女性の地位を少しでもよくするために力を尽くす、その活動を認めてくれるのであれば、嫁入りする、と、陛下に宣言したそうです。陛下もそれをお認めになり、婚姻が成立したと聞いております。」


私は思わず口を挟んでしまいました。


「そのお約束を陛下はお破りになったのですか?」


殿下は、眉をひそめています。


「最初のうちは、母のやることに口出しをせず、やりたいようにやらせていたと聞いています。

母も、陛下の立場を理解していましたので、決して陛下のことを蔑ろにするつもりはなかったのです。ただ、公務が忙しくなり、その上活動の手を広げていたので、陛下のための時間が削られていたのは確かなようです。

それで、閣僚と王妃の間で、陛下に側室を持ってもらうということになったそうです。その時にはすでに兄も私も生まれており、母の地位は安泰でしたしね。

側妃を持つことは、王家の伝統でもあり、母も反対はできなかった。そこで、公務を分担し、なおかつ女性の権利についても深い理解を示している方を、母の方で準備したそうです。

ところが、陛下は母には知らせず、ジリアン妃を囲い、彼女を公妾として社交にも出席し始めたそうです。母の用意していた女性は辺境に追いやられたといいます。

ジリアン妃はすぐにローランドを生み、正式に側妃となりました。それだけであれば、母もあそこまで憤ることはなかったと思います。しかし、ジリアン妃が側妃になって以来、陛下は、母の力を削ぎ、母の目指す社会を無視するようになりました。」


殿下は長いため息をついて、話を続けます。


「私が物心ついたころには、母は、それでも女性の権利の確立を目指して、日夜閣僚と交渉を続けようとしていましたが、陛下に顧みられない王妃に、閣僚の反応は冷たかったようです。

閣僚はむしろ、陛下のことをおとなしく聞き、寵愛を受けているジリアン妃にとり入ろうとしていましたからね。」


ここでようやく私も思い出に浸る殿下に話しかけることができました。


「即ち、社会が変わるかどうかは、陛下次第だったのですね。そして陛下は、王妃との約束にも関わらず、女性の権利の拡大になんの関心も示さなかった、ということですね。」


なーんだ。つまりはすべて、陛下なのね。陛下で始まり陛下で終わる。陛下が変わればよいのではないですか。


それなら話は簡単です。陛下をすげ変えましょうよ。


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