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「奥様!リリア様がお怪我を!」


その声を聞いて、私もバートさんと一緒に屋敷に走りました。


「リリアはどこに?」


私の問いかけに、バートさんは、


「お嬢様は寝室です。ミルドレッドとエイミィが付き添っております。」


この動きにくいドレスでできうる限りの駆け足でリリアちゃんの部屋に向かいます。部屋のドアを開けると、ベッドの枕に寄りかかり、半身を起こしているリリアちゃんが目に飛び込みました。


「リリア!どうしたの?大丈夫!?」


心配のあまり矢継ぎ早に質問を飛ばしてしまいました。


リリアちゃんはやや青ざめた顔ですが、思いの外しっかりとした声で、


「お母様、大丈夫です。学校の保険医の先生にも見てもらいましたから。階段から落ちて、右肩と右腕を打ってしまいました。それと、左足をくじいちゃいました・・・」


私はまだ安心できません。


「階段から落ちたって・・・頭を打ったりはしなかったの?

バート、念のため、お医者様を呼んでくださる?」


リリアちゃんが答えるよりも早く、バートさんが、


「マーティアン先生がお医者様を呼びにいっていらっしゃいます。」


と、答えてくれました。


リリアちゃんは、


「保険医の先生にも聞かれましたが、頭は打っていません。肩から落ちた感じです。頭はとっさにかばったような気がします。お母様、大丈夫です。」


と、言っています。


そこへ、お医者様をつれた先生も戻ってきました。お医者様は早速リリアちゃんの瞳孔の動きを調べながら、質問しています。


「階段から落ちたと聞きましたが、後ろ向きに落ちたのですか、それとも頭から突っ込む形で?」


「前向きです。足を踏み外して、そのまま落ちちゃったんです。恥ずかしかった。」


「手はつかなかったのかな?」


「ついたと思います。」


「どのくらいの高さから落ちたの?何段ぐらい?」


「4段ぐらいだったと思います。大した高さでもありません。」


「背中を打ったりはしなかった?息ができないくらいの痛みを感じましたか?」


「いえ、そこまでは。」


問診に一生懸命答えるリリアちゃんを見ていると、先生と目が合いました。先生は、私に向かって視線を送ると、かすかに顎を動かし、ドアの方向を指します。何か話しがあるようですね。


お医者様の診断が終わるまで、私も見守ること以外何もできないので、先生に向かって、了解したの旨を伝えるように、かすかに頷きます。

まずは先生がリリアちゃんの寝室から出て行き、その後を追うように、私もドアに向かいます。


寝室のドアを後ろでに閉めると、廊下で待っていた先生が、小声で話しを始めました。


「奥様、リリアさんの事故、何か変ですわ。リリアさん、数日前には、ずぶ濡れのドレスで学校から戻ってきました。その時も、うっかり水の入っていたバケツを蹴ってしまった、ということでしたが、そんなに何度も『うっかり』するリリアさんではないように思うのですが。」


そうですね、おまけにそのことを私に何も言ってこないのも、リリアちゃんらしくありません。学校で何が起きているのかしら。


「先生、申し訳ありませんが、学校に・・・」


私がお願いするのとほぼ同時に先生が、


「今から、リリアさんの学校に行ってきます。」


と、申し出てくれました。


「前回の学校での調査に協力してくださった先生方もいらっしゃるので、その方達にお話を聞いてまいります。まだ学校にいらっしゃる時間でしょう。今からすぐに出かけますわ。」


渡りに船です。


「先生、よろしくお願いします。」


先生は、お医者様を連れてきたその足で再び出かけて行きました。


リリアちゃんの寝室からバートさんも出てきました。


「お医者様の診察が始まりましたので、私は席を外しました。何か私にできることはございますでしょうか?」


「お医者様からお話がうかがえるように、居間の方の準備をしておいてください。」


そう言い終わらないうちに、ルディ君の声が聞こえます。


「お母様!お姉さまは大丈夫ですか?」


金髪の弾丸が、走ってきます。その後ろを同じく早足でついてきているのは、侍従のパトリックさんです。パトリックさんは、数週間前、騎士団を辞めて、正式にスタイヴァサント、というか、ルディ君の侍従となりました。彼曰く、大海(王宮)の小さな魚より、(スタイヴァサント)の大きな魚になるほうが面白いとのこと。

学校に行き始めたルディ君への付き添いだけでなく、ルディ君に剣術の指南もしてくれています。パトリックさんがスタイヴァサントに来てくれたのは、私たちには願ったり叶ったりでした。


私は、まずルディ君の心配に返答します。


「リリアは今、お医者様に診てもらっているの。だからちょっと外で待ちましょうね。怪我はしてるけれど、お返事はちゃんとしているから大丈夫だと思うわ。もう少ししたら、お見舞いしましょうね。」


ルディ君は少し安心したようです。


「待ってる間に、お庭のお花を持ってくる!」


といって、中庭に飛び出して行きました。バートさんにルディ君の後を追うようにお願いします。


後に残ったパトリックさんが、まだ、やや心配そうな顔で、


「学校の方で、リリアさんの怪我のことが噂になっていたので、ルディ君がそれを聞きつけて、随分心配していたんです。学校から馬車を飛ばしましたよ。」


と、言いました。


ううむ。学校で噂になっているか。そうなると、次に来るのは、あれかも。





リリアちゃんの怪我は外傷だけで、他には大きな問題はない、というお医者様のお墨付きをもらいました。挫いた足を悪化させないためにも、リリアちゃんは数日間は、ベッドで寝ていることを約束させられましたが。


ルディ君のお見舞いも無事終わり、リリアちゃんが眠りについたころ、あれはやって来ました。


文字通り、白馬にのった王子様(フィリップ殿下)です。


やれやれ、どうするかな。


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