表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/105

74 帰ってきた未亡人編

お待たせいたしました。第3部をスタートいたします。一旦完結したものをまた始めてしまうということで、ご不快になる方もいらっしゃるかと思いますが、お許しくださいませ。

毎日更新にはならないかと思いますが、出来うる限り短期決戦でいければと思っております。よろしくお願いいたします。

「私がこのようにお願いできる筋ではないこと、重々承知しております。

でも、同じ子を持つ母として、貴方になら私の気持ちがお分かりいただけるのではないかと、一縷の望みを抱かずにはいられませんでした。もう私には、貴方のご慈悲にお縋りするしかないのです。」


いや、同じ子持ち同士と言われてもねぇ。どこをどうやったら私がこの人の言うことを聞くと思ったんでしょうね。不思議だわ。


私に向かって、青ざめた顔、泣き濡れた目で訴え続けているのは、 ジリアン王妃です。


王妃は、すでにあの豊かだった金髪をバッサリ切り落とし、何の飾りもない、質素な黒のドレスを身にまとっています。近々辺境の修道院に送られると言われており、その日をただただ、王宮の外れにある離宮に幽閉されたまま、待っている様子です。


今日の私は、その離宮の質素な応接室で、ジリアン王妃に面会しています。エドワルド王太子から王宮に呼び出しがかかり、てっきり女性専用職業学校についてのお話かと思って お伺いしたのですが・・・なんとまずは、ジリアン王妃に面会するよう、お願いされてしまいました。

なんでこうなった?と思いつつも、状況が読めないので、王妃には、キツくなりそうな言い方を避けて、曖昧なお返事をしようと努めています。


「妃殿下、残念ながら、ローランド殿下が私の言うことに耳を傾けてくださるとは思えませんわ。リリアとの婚約無効以来、殿下はスタイヴァサントにあまりいい印象をお持ちではないのでないか、と、思いますけれど。」


ジリアン王妃は、静かに


「私は、もう王妃ではありません。先日正式にその地位を追われ、全ての敬称は剥奪されました。私はただのジリアンです。ジリアンとお呼びください。家名を名乗ることも許されませんし、名乗る家名もございません。修道院に入るのであれば必要もないでしょう。」


と、おっしゃいました。


うわぁ。思いの外、厳しい。家名(苗字)もなしですか。


「もともと王妃の器ではなかったのです。その力もないくせに、陛下に認められ、信頼されたい、と、欲を出し、野心家の兄と実家の言うがままに振る舞った、その結果がこれです。

兄も処刑され、実家もなくなりました。戻る場所もございません。

私自身のことは、自らの蒔いた種と諦めもついております。ですから私はこのまま王都より消える所存でございます。」


ナイアック公爵は、陛下のご裁量が出てから2ヶ月を待たずして死刑を執行され、既にこの世の人ではありません。その素早さには私も少々驚いてはいました。


「ええと、なんと申し上げてよいやら、言葉も見つかりませんが・・・」


いきなりジリアン呼びもできず、かといって彼女の依頼を受けるつもりもありません。とりあえず適当な慰めを言うつもりでいました。

しかし、私のその場しのぎ、お為ごかしなセリフが終了するのを待たず、ジリアン元王妃が話を続けます。


「ですが、ローランドは納得しておりません。陛下の御裁量に反旗を翻し、私を救い出すつもりでいると聞いております。それを何としてもやめさせたいのです。

スタイヴァサント夫人、兄のやったことを思えば、私の顔を見るのもご不快にお思いかとは思います。ですが、私にはもう他に頼れる方がおりません。なんとかローランドに計画を思いとどまるよう、説得していただけないでしょうか。

愚かな母のために、あの子を犠牲にはしたくないのです。」


今頃そんな事を考えているなんて、客観的に見て、殿下も結構どころか、大変愚かだと思うのですが。とにかく巻き込まれないよう、この追い詰められたお母様をなんとか穏便にやり過ごす方法はないものか考え中です。


「いや、ですから、ローランド殿下は、私の言うことなど聞いてはくださらないでしょう。むしろ、殿下に温情をかけていらっしゃる王太子殿下やフィリップ殿下にお願いされたほうがよいのではないでしょうか。」


陛下は、ローランド殿下を、国外追放にと考えていらっしゃったようですが、王太子の説得で、殿下は廃嫡の上、隣国のマディソン王国へ留学という形で国を出されます。身柄は先方の王室預かりでもあり、今後の様子を見て、この国に戻って来ることも可能かもしれません。

マディソン王国からは、近々王太子のお妃としてマーガレット王女が輿入れされる予定となっています。人質交換とまではいきませんが、王女のことを考えると、ローランド殿下の扱いが蔑ろになることもないでしょう。


まあ、これらの王太子の温情も、ローランド殿下が今事を起こせば、水の泡でしょうがね。


ジリアン元王妃は引き下がる様子を見せません。


「あの子がエドワルド様の言う事を素直に聞けるとは思えません。もちろんエドワルド様の温情には感謝いたしております。

でもローランドは、兄達と自分の能力を引き比べて、劣等感を拭えなかったのでしょう、反発ばかりしておりました。歳も離れていますし、陛下に認められない我が身の不甲斐なさに、いつも焦りを感じていたせいだと思います。

殿下達のご厚意をローランドは聞き入れないでしょう。」


いや、だからと言って、なぜそこで私が適任だと思うのよ?


「そんな殿下が、私なんぞの言う事を聞くとは思えませんわ。」


無理ですわ。説得する気もないけど、説得できる気がしない。


「 スタイヴァサント夫人のお言葉であれば、あの子は聞きます。母として娘のリリアさんを守った貴方を、あの子は密かに賛美しておりましたの。女性でありながら、真に娘を守った強さと賢明さに、あの子は舌を巻いておりましたのよ。

同じ女性でも、私のような紛い物の、張りぼてで、誰かにおぶさった権力ちからではありません。貴方がお持ちになっている本当の能力ちからに感嘆しておりました。」


いえいえ、それはいくらなんでも買いかぶりでしょう。もしくはローランド殿下視点ではなく、女性が本当の力を持たないこの王国において、ジリアン元王妃がお感じになっていたことでは?


「私共がこれ以上スタイヴァサント家にご迷惑をおかけすべきでないことは重々承知の上です。それでも私は貴方の母としてのお心に頼らざるを得ませんでした。私の実家が行った事は全て私が責を負います。ローランドを・・・ローランドをお願いいたします。」


そこまで聞いたところで、応接室に侍女というにはあまりに無機質で表情のない、大柄な中年女性が入ってきました。


「そろそろお時間です。」


まるで牢獄の面会時間だわね。


ジリアン元王妃は、抵抗する態度も見せず立ち上がると、


「このようにお時間をいただけただけでも、ありがたいと思っております。母として息子に最後にしてやれることは、息子がこの母を忘れ、自分の道を歩いてくれるよう願うことだけです。」


そういって、最後に私の両手を固く握り、頭を深く下げられました。額は既に、私の手にくっつかんばかりです。私はついついジリアン元王妃の細いうなじに気を取られてしまいました。そして、髪を切り、うなじを見せなければならない姿になった女性の、二度と日の目を見る事のない立場を。


いや、だからと言って元王妃のお願いを聞き入れるつもりはありませんが。


再び顔を上げて、私の目をもう一度見ると、ジリアン元王妃は、侍女に連れられて応接室を出ていきました。


ふと気がつくと私の手には、小さな袋が残されています。賄賂などを送られたのであれば、突っ返さなければ、と、急いで中身を確認すると、出てきたのは、 色あせた一房の金髪の巻き毛でした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おー第三部。最大のザマァ対象の愚王が生きてるから続くのは良いですね。是非とも間接的な仇である愚王をギャフンと言わせてほしい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ