73 エピローグ
疲れた体を引きずるように謁見の間を出ると、控え室に向かいます。控え室には、心配な様子のルディ君が、パトリックさん、ヘンリーさん、そしてバートさんとで待っていました。
侯爵によく似たルディ君が
「お母様!うまく行った?」
と声をあげて飛びついてきます。
「ええ、うまくいったわ。」
私は、ルディ君を抱きしめながら、返事をします。
先生がふかーいため息を吐きながら、
「いったいぜんたい、何に取り憑かれたらあんな胆の冷えることを陛下に言えるんだか。ただの外交辞令だったらどうするつもりだったんですか!」
と、言いました。
ふふっ。どうするつもりだったんでしょうね。
私は心配して迎えにきた、私の家族を見ながら、先生に、
「まっ、憑かれているとしたら、旦那様でしょうね。」
と、言って、軽く胸を押さえました。その中に灯っている暖かいものを確かめるように。
「お父様そばにいる?」
と、手を繋いだルディ君が尋ねます。
「ええ、いらっしゃるわ。」
お父様だけじゃなくお母様もね。
ああ、貴方達のお母様にこんな気持ちを残されるとは思ってもみませんでした。あまりに不毛なので、私も今まで絶対認めたくなかったんだけれど。
私の中の何かが、本当に侯爵を愛おしいと思ってます。
私自身なのか、私の中のお母様なのか・・・家族を思い、家族のために一人で戦って旅立っていったスタイヴァサント侯爵を、愛して、そして悼んでいます。
私を囲む人々を、笑顔で見つめ返しながらも、私の頬に暖かい涙が溢れ落ちるのを感じました。
旦那様はもういない、でも旦那様は、私が何よりも欲しかった家庭を残して逝ってくれました。
今の私は・・・亡くなった夫を哀惜する未亡人、そして 『子持ち』です!