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ラガーディア伯爵は、後ろ手に縛られているせいでバランスが取れないのか、それともショックのせいなのか、足元がおぼつきません。
デュラント伯爵に押されながら、よろよろと歩いています。
ニューアーク子爵に至っては、放心状態で、口が開いたままです。
その様子をしばらく見ていたフィリップ殿下は、おもむろにナイアック公爵に向き直ります。
「この二人の貴族は、すでに、あなたの指示で、領地からの税をごまかしていたことを証言しています。
税を少なく収める、その見返りとして貴方に高額な謝礼を払っていたとね。」
ナイアック公爵も流石に顔色を失っていますが、反論はやめないようです。
「私は何も受け取っておらんと言っておるだろうが!そいつらが勝手に税をごまかしていたんだろう!」
その声に、ラガーディア伯爵が反応します。
「そんな・・・我々に罪を被せて・・・お見捨てになりますか・・・」
フィリップ殿下は、ここでラガーディア伯爵だけではなく、周囲に立ち並ぶ貴族達を見回します。
「国の財源は、税だ!その税をごまかすということは、国を根底から揺るがすことだ!反逆罪に値するぞ!
ナイアックのために、反逆罪で死罪となることを選ぶのか?
この二人だけではない!既に財務省の帳簿から長期にわたっての各々の納税額の変化は押さえてある!
反逆罪で告発されるのを選ぶか、それとも、ナイアックに脱税の話を持ちかけられたことを証言して、陛下の慈悲を乞うか、どちらかの道を選べ!」
身に覚えのある貴族さんたち、覚えのない貴族さんたち、どちらもざわつき始めました。
そうですよね、目の前にいるラガーディア伯爵達を見れば、帳簿に手が入ったのは明らかですから、どう保身に動くか、貴族の皆さん悩みどころですよね。
一人黙って熟考していたユークリス伯爵が、おもむろに発言権を求めました。
「陛下並びに殿下、私の発言をお許しいただけますでしょうか。」
陛下がまず、
「許す」
と仰せになりました。フィリップ殿下も異存はないようです。
「天地神明に誓って、私は、税をごまかしたりはしておりません。ただ、ナイアック公爵から、税を猶予する話を持ちかけられたことはございます。無論、即座にお断りいたしましたが。」
確かにユークリス伯爵の税率に変化はありませんでした。
私はそれぞれの家と領土からの税率の変化を全て調べましたから。長期スパンで帳簿を見ていて、数人の貴族の納税額が、近年、不作や災害などの明らかな理由がないにも関わらず、年々下がっていっているのが確認できました。
旦那様が10冊も帳簿を用意したのは、この長期間に渡っての税率の変化を調べなくてはならなかったのだと、その時初めて理解できました。
ユークリス伯爵の発言でインスピレーションを得たのか、そこらかしこから続々と声が挙がります。
「私もナイアック公爵に声をかけられました!」
「私もです!」
「今年は少し、税を猶予すると言われました!」
ふうん、でも、今声をあげた人たちのうち、少なくとも10%は、実際・税をごまかしてましたよ。(久々のカメラアイ)
フィリップ殿下は、お得意の嫌味を込めて、ナイアック公爵に向かって発言します。
「いかがですか?貴族の矜持をお持ちの方々が、このように申し立てていますよ。これら全ての人が嘘をついていると?」
肩を落としたナイアック公爵からの返事は、ありませんでした。
ナイアック公爵を見ながら、陛下が静かに、
「ペルハム・ナイアック、横領、背任罪並びに反逆罪により、爵位剥奪、領土没収の上、断首による死罪を科す。」
と申し渡しました。




