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殿下はお帰りになりましたが、なぜだか、本日のスタイヴァサント家には、関係者が書斎に集合しています。バートさんやヘンリーさん、先生などの使用人さんたちだけではなく、いざとなったら、帳簿を調べるのを手伝おうと思ってか、ジュリアちゃんも待機しています。


皆の前で、三年前の冬の帳簿を開きました。まず注目すべきは、憲兵の寄宿舎工事の部分です。


「やはり、二軒の業者からの請求が来ていますね。そのうち一軒はグリーンヴィルです。ここからは、資材の購入だけですね。もう一方の業者は、資材だけではなく、工事に関わる人たちの人件費なども組み込まれた請求となっています。

こちらの業者が主体となって工事が行われたのは明らかです。

そうなると・・・グリーンヴィルのほうは、便乗して起こした架空請求の可能性が高いということですか・・・」


皆の期待の視線が集まります。


「パトリックさん、まずは、デュラント伯爵のところへ行って、宿舎工事の資料をもらって来てください。その資料を元に工事に使ったであろう資材をはじき出します。」


パトリックさんが飛び出して行きます。


「先生は、ウッドベリー商会に出向いて、このグリーンヴィルの資材の原価を聞いて来てください。

三年前なので、価格に大きな変化はないと思いますが、後ほど原価計算をして、グリーンヴィルの請求が真っ当なものか、水増しされているのか調べます。」


先生も


「承知しました。」


の、声を残し、出て行きました。


「リリア、この部分の不正が明らかになったら、すぐさまナイアックとグリーンヴィルに、同時に逮捕状が出せるか、そして、同時に拘束できるか、殿下に確認してください。

短期決戦ができるか、必ず確認してね。」


リリアちゃんは、既に、手紙の文章を頭の中で考えているようです。


「ええ、お母様。」


ジュリアちゃんと私は、すべての資料が揃うまで、帳簿のほかの部分に怪しいところがないか、調べ始めました。


がちゃん。


ジュリアちゃんが、計算機を使って、入金出金に誤差がないか、調べています。


私も同様の作業をしています。





昼になると、心配したミルドレッドさんが、片手でも食べられるサンドイッチをトレイに乗せて持って来てくれました。


ああ、懐かしいな、この状況、と前世を思い出しながら、帳簿をチェックします。


昼過ぎに、先生とパトリックさんも戻って来ました。


彼らの持ち込んだ資料を基に、憲兵宿舎の増設修理にかかった経費を計算します。合計の金額は、20%の利益を見込んで、ほぼ、委託した業者一軒分のお支払い金額と合っています。


こうなると、間違いありません。グリーンヴィル請求分は、架空請求です。


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