67
ジュリアちゃんと先生の頑張りで、練習帳簿がスタイヴァサントの書斎に到着しました。10冊ともなかなかの出来栄えで、だいぶ古びて見えます。
来客があっても帳簿が見えないよう、二重扉になった書棚の裏に隠してあります。
今日はその中の三冊ばかり、王宮のフィリップ殿下にお届けする予定です。
先日、フィリップ殿下からリリアちゃん宛に、大仰に包まれた、可愛い帽子がプレゼントとして届きました。
今日は、リリアちゃんが、それを突き返すという名目で、帽子箱に帳簿を入れて、パトリックさんに持たせました。
帳簿は今夜遅く、人気のなくなった財務省にフィリップ殿下が忍び込んで、すり替えます。
すり替える帳簿は、三年前の冬のものと決めています。今夏の終わりなので、同じ季節の帳簿は避けました。万が一、財務官の誰かが、同じ時期の古い発注について調べるようなことがあっても、すり替えがバレないように、と、時期をずらしました。
その上、デュラント伯爵によると、2年前の春、憲兵の寄宿舎が改装され、増築されたということです。だとしたら、発注は、その前の冬。不正が行われたとしたら、このタイミングではないか、と、みました。
本物の帳簿は、明日の朝、フィリップ殿下が、なぜプレゼントを受け取っていただけないのでしょう、と、スタイヴァサントに訴えかけるついでに持って来るそうです。
殿下の面目は丸つぶれですが、より安全に計画を遂行するには仕方がないですね。ぷぷっ。
+
+
+
翌日、フィリップ殿下が、緊張を隠せないお顔で、リボンのかかった箱を持って現れました。
「侯爵夫人、こちらが例のものです。」
「ありがとうございます。すり替えに問題はございませんでしたでしょうか。」
「王宮内のことですので、細心の注意を払いました。大丈夫のはずです。
スタイヴァサント家を訪れるのも、兄上とローランドに、リリアさんに贈り物を受け取ってもらえない、とこぼしておきましたから、疑われてはいないでしょう。
ローランドは、逃がした魚の大きさに、ホゾを噛んでいるようですよ。私には、散々、リリアさんの愚痴をこぼしてました。『気が強くて、可愛くない』とね。私がリリアさんに好意を抱いているのが、よっぽど気に入らないのでしょうね。」
ここで、私はふと疑問が湧きました。
「この件が決着して、ナイアック公爵とその一派をを追い落とすのは当然かと思いますが、王妃とローランド殿下については、どのように対処するおつもりなのですか?」
殿下はすかさず
「すべての問題の源は王妃です。王妃には、王宮を下がっていただき、こちらの用意する辺境の修道院にでも入っていただくつもりです。」
継母には容赦なし、ですね。
「ローランドについては、まだ考え方も幼く、謀に長けているとはいえません。今回のことは何も知らないと見ています。
ですから判断は、父上にお任せするつもりです。
背後で支える王妃やナイアックと離してしまえば、大丈夫なのかもしれません。その場合は新たにふさわしい後見人を置いて、教育のし直しですね。」
甘い!甘いわー!まあ、これが兄弟の情なのかもしれませんが。
全ては陛下次第ということは、陛下を納得させるだけの証拠を集めればよいこと。誰がどのような罪に問われるかは、今心配することじゃありません。
では、帳簿監査とまいりますか!