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前回と同様、リプリー・ウッドベリー氏とお会いし、ご挨拶しております。
「ようこそ、スタイヴァサントの奥様。ご活躍のご様子、伺っておりました。」
ええと、ご活躍?どういう意味かしら?私の笑顔が凍りつきました。
「あら、おっしゃるようなことは何もしていないと思うのですが。」
ウッドベリー氏は、笑顔を崩しません。
「いえいえ、ご謙遜を。
最近、仲買いからの支払いがスムーズになったので、どうしたことかと事情を聞いたら、奥様が小売店の帳簿づけを助けていらっしゃるので、小売店からの取り立てが非常にうまく行っている、と申しておりましたよ。」
・・・どうしよう、この情報、どこまで広がっているのでしょう。なにか差し支えはあるかしら。
背中に冷や汗が流れます。病み上がりにこれはキッツイわ。
「そんなことが噂になっているのですか?困りますわ。ちょっと自分のところで使っているドレスメーカーを手伝っただけですのよ。」
ウッドベリー氏は相変わらずの笑顔です。
「いえいえ、ドレスメーカーだけではなく、お手を広げていらっしゃると伺っておりますよ。」
まずい、絶対的にまずい。
先生がまず鶏冠に来たようです。
「随分おしゃべりな仲買をお使いですのね!奥様は、派手なことはお嫌いですから、こういったことが人の口に上らないようお願いしていたと思いましたが!」
ウッドベリー氏はめげません。
「仲買から報告を受けたのは、私だけです。」
えっ?
その目は、私をじっと見ています。他にはもらしてませんよ、と。
ウッドベリー氏は続けます。
「私は、奥様が侯爵と同じことをしていらっしゃるのだなぁと感心いたしました。」
ご主人と同じ方向で調査していらっしゃいますよ、と、後押ししてくれたのでしょうか。
「・・・そうですか。主人が同じことをやっておりましたか。ふふっ。夫婦は何かと似てしまうものなのかもしれませんね。」
ちょっと落ち着きました。
「勿論ですとも。
ああ、それと、仲買には、くれぐれも、スタイヴァサントの噂話などしないよう、念押ししておきました。誰が興味を持つかわかりませんからね。」
スタイヴァサントの動きに興味がある人がいると、警告してくださっているのでしょうか。
「あら、一体誰が私共のような非力な者がやることに興味をお持ちになられるのでしょう?」
ご存知なら、お教えくださいな。
ウッドベリー氏は、私から目を逸らさないで、答えます。
「案外、我々の商売敵なども、小売店の動きには注意していますからね。」
聞き捨てなりませんね。
「それは、他の商会などという意味ですか?どこの商会かご存知ですか?」
「そうですね、新興のグリーンヴィル商会などですかね。」
思わぬところから、思わぬことを聞くものですね。