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ウッドベリー商会へ向かう馬車の中で、リリアちゃんと先生に、商会に向かう理由を説明しています。なぜだかこの二人は、一緒についてくると言って、後に引きません。
「旦那様は、ナイアック公爵が、財務省で不正を働いて多額のお金を横領している、その事実を暴こうとして亡くなった、という、大元の問題を考えてみたの。
ナイアック公爵が国のお金を横領するには、色々な方法があると思うのだけれど、一番一般的というか、帳簿を工作して簡単にできるものから調査してみようと思いついたの。」
リリアちゃんが目を丸くして
「簡単な方法って、どんなのですか?」
と、聞いて来ました。
「まずは、水増し請求。たとえば、国が、Aという商会から、50シリングの商品を購入して、請求書を出す。国がお支払いする時、その倍の100シリング支払ったことにして、差額の50シリングを自分のものにするの。
架空請求というのもあるわ。A商会から50シリング請求がありました、ってことにして、支払う振りして自分のものにする。」
先生がちょっと眉を上げて
「本当に随分簡単にできるのですね。」
と、言いました。
まあ、そうには違いありません。
「どちらの方法もAという商会が何も知らないうちにやっちゃうことが可能なのだけれど、それだと、請求書を調べるとわかるし、一回の横領で入ってくる金額もあまり大きくできないの。目立ってしまうから。
だから大抵の場合、Aという商会がグルになって横領に協力しているのよ。架空の請求書を作ったり、実際の請求額より高い請求書を提出したりしてね。もちろんAは、支払われたお金の一部を賄賂として受け取って、ナイアック公爵にほとんど渡す、って方法。これが一番よく起こる横領事件なの。」
先生がハッとして
「ウッドベリー商会がそのAだと?」
と、聞いてきました。
「いいえ、その可能性は低いと思っているのよ。もし、ウッドベリーが関与しているのならば、旦那様があそこから計算機を購入したりはしないでしょう。」
今回の調査は、なるべく旦那様のやっていたことを追いかけてみようと思っています。
先生は、首を傾げながら、再び質問します。
「では、ウッドベリーには、どのような要件で行かれるのですか?」
どちらにしろ、あまり突っ込んだ話をして、疑いをまねくようなことはいたしません。前回の騒ぎで懲りました。慎重に、慎重に。
「旦那様が生前、ウッドベリー商会とどんな話をしていたか、知りたいと思って。
特に難しい話ではないのですが、問題はどのようにアプローチするかですね。」
先生とリリアちゃんもしばらく沈黙しながら、アイディアを考えています。
リリアちゃんが何か思いついたようです。
「計算機の使い方がわからない、っていうのはどうでしょう?お父様はなんのために使うつもりだったの、って聞いてみるとか?」
ああ、いい線ですね。
「使わないから、計算機を引き取ってほしいんですけど、そもそもなんのために使う予定だったか聞くというのは、自然ですね。いい案だわ、リリア。」
計算機を持って来なかったのは失敗ですが、引き取ってもらえるかどうかわからなかったから、重いし、持って来なかったといえば大丈夫かしら。
「では、リリアのアイディアで行きましょう!」
三人で意気揚々とウッドベリー商会に到着しました