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しばらくして、お医者様を連れたリリアちゃんとエイミィさんが戻ってきました。
ヘンリーさんをお医者様とミルドレッドさんに任せると、私たちは廊下に出ます。
エイミィさんは、汚れた布をかき集めて洗濯室に向かい、私と先生は血のついた服を着替える算段を話しあっていました。
リリアちゃんが、使用人入り口で警備に当たっているバートさんたちを見て、
「お母様、バートたちは何をやっているのですか?」
と、聞いてきました。
私も戸口の前の使用人さんたちに目をやりながら、
「アッシュワースやカーターが侵入してくるかもしれないから、警戒してもらっているのよ。」
と、答えます。
するとリリアちゃんは、ちょっと顔を赤らめて、早口で
「お母様、その警戒、もう必要ないです。」
と、言いました。
えっ?
「二人とも、もう捕まりました。」
「「えっ??」」
先生と私です。
「さっき、エイミィと馬車でお医者様を呼びに出かけた時、門を出たらすぐに、アッシュワースが、馬車に乗り込もうとしてきたんです。」
「「・・・!」」
「まあ、その時はアッシュワースだって知らなかったんですけど、いきなり馬車のドアを開けて、恐ろしい顔して体をねじ込んでこようとしたから・・・
思いっきり顔を蹴り上げたら、アッシュワース、馬車から落ちちゃって・・・」
「「・・・!!」」
「どうやら暗がりに隠れて逃げる機会を伺ってたみたいです・・・」
「「・・・!!!」」
「落ちた拍子に気を失ったみたいで・・・
エイミィが銃を取り上げたところで、デュラント伯爵が駆けつけていらっしゃったので、後をお任せして、お医者さんを呼びにいったんです・・・」
私は安心のあまり、腰が抜けそうです。
リリアちゃんが嬉しそうに報告します。
「伯爵が、カーターは既に捕まえた、とおっしゃってましたから、もう警戒を解いても大丈夫です。」
先生が、口を開き、また閉じて、結局何もいわないことを決めたらしく、バートさんたちの方に向かって歩きだしました。
私はまだ足がガクガクして、動けそうにありません。
「あ、お母様、銃はデュラント伯爵にお渡ししときました。きっと今頃、争った跡を作り上げて、二人をどこかに収監していらっしゃると思います。」
リリアちゃん、よくぞ頑張ってくれました!お母様は嬉しいぞ!
とうとう私は廊下に崩れ落ちるように座り込んでしまいました。