54
と、いうことで、話し合いはデュラント伯爵、バートさん、リリアちゃん、先生、私で始まりました。
まずは皆に席についてもらい、デュラント伯爵に、現状の説明からです。
「今朝、当家の従僕でした、カーターを窃盗の罪で捕らえました。主人の貴重品を盗んでいたところを現行犯で押さえたのです。
その後、カーターを問いただしたところ、 お金と引き換えに、主人の動向をアッシュワースに漏らしていたことを証言しました。
尋問を終えて、現在もカーターは自室に閉じ込めてあります。」
ちらっとバートさんの方を見ると、バートさんが頷きながら、
「カーターの様子に変わりはございません。自室内をウロウロしております。厩のジェームスとピーターが戸口を見張っております。」
デュラント伯爵は、にっこり笑って
「それは良かった。カーターの拘束が大変であれば、私の方でお引き受けしますよ?」
と、仰ってくださいました。
私は、両手を胸の前で組むと、これからの真剣な話に備えます。
「カーターの処置については、後ほどご相談させてください。問題は、カーターがナイアック側に漏らした情報内容です。
主人の殺害に繋がった情報は、おそらく主人の死の直前の動向です。王都の小売店を回っていたことが、ナイアック側の疑いを招いたようです。」
デュラント伯爵もこの事件における小売店の重要性についてはご存知のようです。
「つまりナイアックは、スタイヴァサント侯爵が、小売店を回って、貴族への贈賄の有無を調べていたと思ったのですね。」
「そのようです。それ以外に際立った報告はないようです。
問題なのは・・・カーターが主人の死後も、スタイヴァサントの私たちの動向をアッシュワースに報告していることです。もっと言えば、私たちが現在も王都の店を回っていることを、カーターはナイアック側に報告しているのです。」
事の重要性に気が付いたのは、デュラント伯爵だけではなく、バートさんもでした。
「えっ!では、奥様も狙われるということですか?」
デュラント伯爵には、もっと切羽詰まっていることをご理解いただかなくてはいけません。
「私だけで済めばよいのですが、小売店回りは、リリアや先生も参加しています。ひょっとしたら、先生の妹さんのジュリアさんまで標的になるかもしれません。」
先生の体がビクッと動きます。
「私達がナイアック公爵のターゲットになっているかどうか、早急にアッシュワースから聞き出さなくてはなりません。アッシュワースをすぐにでも拘束する必要があるのではないでしょうか。」
デュラント伯爵の顔は一瞬赤くなりましたが、言葉を発する前に、気持ちを落ち着けるように深呼吸しました。
「皆様の安全は非常に重要です。ですが、アッシュワースを逮捕するのは、調査の終了を告げる時だと考えています。今アッシュワースを逮捕してしまうと、秘密裏にナイアックを調査していることが、全て無駄になってしまいます。永遠にナイアックを裁く機会は失われるでしょう。」
デュラント伯爵はここで真っ直ぐ私の目を見ました。
「申し訳ございません、侯爵夫人。それは、どうしても出来ません。」
私が何を言うよりも前に、リリアと先生が立ち上がりました。
「「私たちの安全は二の次なのですか?」」
デュラント伯爵は、国のことをまず第一に考えなければならないのです。司法長官として、これは当然の反応でしょう。
伯爵は眉間にシワを寄せ、胸に片手を置いて誓われました。
「いえ、皆さんの安全をないがしろにするつもりはありません。もちろん出来うる限りの人力を割いて、皆さんをお守りします。」
個人としてはそういったお気持ちもあるでしょう。ですが、それもどうなることやら。
「伯爵、お気持ちはありがたいのですが、屋敷の周りを警護の人間がウロウロするようでは、全てがナイアック側にバレてしまうのではないでしょうか。警備を増やして、私達が屋敷に閉じこもるのも、現実的な解決方法とは言えないと思います。」
デュラント伯爵は、硬く口を閉じてしまいました。
そこで、ゆっくり私のアイディアを話し始めます。
「私が囮になること・・・」
皆さんが一斉に席を立ちました。
「「ダメです!!!」」
ん、もう、皆さんたら最後まで聞いてくださいな。
「・・・私が囮になることも考えましたが、これも成功する可能性はあまりありません。ナイアック側が私のことを疑っているかどうかさえわからないのですから。」
皆さん、大きな息を吐いて席に戻りました。
「そこで考え付いたのが、カーターにアッシュワースを殺させると言う方法です。」
今度は腰が抜けたのか、誰も席から立ち上がりませんでした。