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「ええと、俺と付き合いがあるのは、アッシュワースって奴です。偉い貴族の使用人で、随分稼いでるらしくって、すごく気前のいい奴なんです。そいつが、いつでも口利いてやるって言ってくれてたんですけど・・・」
カーターは、ようやくポロポロと語りはじめました。
「どこの貴族か聞いてはいないの?」
「聞きましたけど、笑って教えてくれませんでした。」
先生は呆れたように唸りました。
「どこの誰ともわからない奴が仕事の世話をしてくれると、ホイホイ信用したの?バカを超えてるわね。痴れ者だわ。」
どうやら女性にバカにされるのがお気に召さないようです。カーターは、キッと、先生を睨みます。
「金払いがすごく良いんだ。何時だって情報持っていきゃあ、いい金で買ってくれたんだぞ!」
「どんな情報?」
私が思わず聞き質すと、カーターは、さすがに喋りすぎたことに気がついたようです。
「・・・いや、あの・・・」
私は本格的にカーターを崩しに入ります。
「どこかのお偉い貴族さんの雇い人が、貴方の面倒を見てくれて、その代償として 情報を渡していたということでしょう?貴方が渡せる情報といえば、スタイヴァサント家のことよね。」
今まで黙っていたバートさんが、思わず声を荒げました。
「カーター、お前、ご恩あるスタイヴァサント家を売ったのか!」
カーターはちょっと慌てて言い訳します。
「いや、別にそんなすごいことしてないよ。侯爵が日頃何してるか聞かせろっていうから、あんなことしてる、こんなことしてるって、話してただけだよ。それぐらいどうってことないだろ。話せばいくらでも小銭がもらえるから、つい。」
つまりは、お金欲しさに旦那様の様子を逐一報告していたということですね。
「あんなことこんなこと、じゃわからないわ。具体的に、どんな話をしたのか、教えてちょうだい。」
「旦那様の愛人が乗り込んできたことを話したら、大笑いして金くれたよ。」
まあそうでしょうね。
「その他には?旦那様が亡くなる前は、いったいどんな話をしていたの?」
「いや、特に面白い話はなかったです。旦那様ってあんまり遊ばないし、いつも同じような仕事して、同じような時間に戻って来てたし。暇な時は家族と一緒に過ごしてたじゃないですか。」
「それだけ?いつもと違った報告はしなかった?」
そう言われた途端、カーターも思い出したようです。
「奥様と同じこと聞かれたな。普段と変わったことしてないか、って質問されたから、出かけることが多くなって、王都の店や商会をよく見回るようになった、とはいいましたけど。」
ああ、それだわ。ナイアック側は、旦那様が小売店の調査をしていると思ったのね。貴族への賄賂が小売店から送り込まれていることを旦那様が調べていると勘違いしたのじゃないかしら。
「実際どの店に行ったのか、店の名前は出したの?」
カーターは自分の話していることが、そんなに重要だとは認識していないのでしょう。結構ペラペラ喋ります。
「いや、旦那様がどの店に行ってたのか俺も知らないし。名前は出してません。」
どうせ小銭欲しさに、カーターも大げさな話をしたのでしょうが、店に行ったぐらいで、疑心暗鬼にかられるとは、ナイアック公爵もかなりの猜疑心の持ち主ね。
ここまで聞いて、ハッとしました。
「カーター、貴方まさか、私たちがよくお店に出かけることまでしゃべっていないでしょうね。」
カーターはなぜそれが問題なのか、全くわからない様子で、
「えっ?よくドレスとか花とか買いに行くっていいましたけど。」
うわ、まずい。私たちの行動にも疑念を持っているかしら。
「ドレスや花ね。その他のお店は?食料品とか本屋とか。」
思い出し、思い出ししながら、カーターは
「いやぁ、言ってないと思いますけど。」
と、囚人のくせに、のーんびり返事をします。
私はすぐさま立ち上がりました。
「バート、デュラント伯爵に使いを出して、こちらに来ていただけるようお願い出来るかしら。カーターのことでと言ってもらえれば、お判りいただけると思うわ。」