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本来であれば、屋敷の地下にある牢獄とかに収監すべきところでしょうが、残念ながら、そんなものはスタイヴァサントにはありません。よってカーターは、書斎の私の前に引っ張り出され、手足を縛られた上で椅子に座らされています。
周りを屈強な使用人たちと、バートさん、先生に取り囲まれているので、簡単には逃げ出せません。
リリアちゃんはかなり抵抗しましたが、ルディ君にこんな様子を見せるわけにはいかない、という私の主張を受け入れて、ルディ君を連れて子供部屋に移動しました。リリアちゃんが盗み聞きをしにこないよう、侍女のエイミィについていてもらっています。
後ほど、カーターから聞き出したことは、リリアちゃんにも教えますが、まあ、そこはちゃんと編集して伝えましょう。
つらつら考えているうちに、なぜだか尋問が始まってしまっていました。不貞腐れたカーターが口火を切ったようです。
「俺は自分のものを旦那様の部屋に取りに行っただけです!縛られる理由はありません。早く解放してください!」
まずは、現場を取り押さえた先生が反論します。
「貴方バカなの?バカなのよね?なんで旦那様のドレスコートと指輪が貴方の忘れ物なのよ?いい加減なこと言うんじゃないわよ。言い逃れ出来ると思ってるの?盗品持ってるところ捕まったのよ!」
うふふ、先生のお怒りをうまく使わせていただきましょうか。私は、大きなため息を吐きます。
「カーター、本当に残念だわ。現行犯ですもの、どうしようもないわね。」
先生が息を巻きます。
「雇い主からの窃盗罪にどれだけ厳しい罰が与えられるか、貴方知らないわけじゃないでしょう?まっ、少なくとも15年は刑務所ね。それとも強制労働かしら?牢獄で何もしないより、炭鉱とかで労働させられるといいわね。外の空気も吸えるし!」
先生なかなか辛辣です。
カーターの顔から血の気が失せて、真っ白になっています。
私は再び口を出します。
「ああ、カーター、どうしてなの?私はてっきり貴方が旦那様のことをしっかり支えてくれていたと思っていたのに・・・」
ここぞとばかりにカーターが言い訳します。
「奥様!俺は旦那様に誠心誠意お支えさせていただきました!魔が差したんです!首になったことがショックで、つい・・・」
先生容赦ありません。
「御託並べてるんじゃないわよ!次があるって、自信たっぷりだったじゃない!何がショックよ!」
会話が良い方向に流れてますね。
「そうよ、カーター、貴方なんだか当てがありそうだったから安心していたのに。一体どうしたの?」
カーターは、ちょっと緩そうな私に、ご慈悲を願う方向に転換したようです。肩を落として私に訴えかけてきます。
「ずっとよいお付き合いをさせていただいていた人がいて、俺のこといつでも面倒見ると言ってくれていたのですが、突然態度を翻されまして・・・」
「あら、どうして?」
「・・・わかりません・・・」
まだ口を割るつもりはないようですね。
先生に突っ込まれてます。
「わからない?なんでわからないのよ。いい加減なこと言ってるんじゃないわよ!」
やさーしく促しましょうか。
「その人は、なんと言って態度を変えたのですか?」
カーターは黙りこくってしまいました。もうひと押し。
「カーター、貴方の不運な状況を配慮しようとしても、事情がわからないのであれば、私にはどうしようもないわ。どういうことか、説明してくれないと。」
先生が畳み掛けます。
「奥様がこういってくださっている間に吐かないと、もう後がないわよ!
奥様、だめだわコイツ。もう、憲兵に引き渡しちゃいましょうよ!」
ようやくカーターの口が開きました。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
私は再度カーターを促します。そろそろ核心に行きましょうね。
「あなたの面倒を見てくれると言っていたという人は、いったい誰なの?」