46
「私は、そう見ております。」
デュラント伯爵も、手短に包み隠さず話しくださるおつもりのようです。この際ですので、私もきちんと伺っておきましょう。
「その根拠になるようなものはあったのでしょうか?」
「スタイヴァサント侯爵が落馬されたのは、東部への視察の途中でした。そもそも侯爵は、財務の仕事を王宮の事務室でこなされることが多く、出張や視察に行かれたことはほとんどありませんでした。事務仕事専門でいらっしゃいました。
それが、お亡くなりになる直前、二度、財務長官であるナイアック公爵から命じられて、視察に出られました。二度目の時に、落馬事件が起きています。
スタイヴァサント侯爵の出張は、非常に不自然な命令であったことは確かです。同行者もおらず、お一人での視察でした。旅慣れない文官に、そのようなことをさせるというのはおかしい。
だが、残念ながら、目撃者もおらず、殺人であったという証明はできませんでした。」
私はデュラント伯爵の手助けが出来ないか、考え込みました。
「一度目の出張行程もお調べになったのですか?お話を伺っていると、一度目で狙ってだめで、二度目で殺害に成功したという可能性もあると思うのですが。」
流石に司法長官だけあって、その辺は抜かりがないようです。
「両方の経路を全て調べました。」
プロのお仕事です。信じましょう。
「では、そちらから殺人を立証するのは難しいということですね。」
伯爵は、こちらを真っ直ぐ見返しています。
「はい。ですから、アッシュワースのようなナイアック公爵の部下が転ぶのを期待しているのです。」
ああ、殿下達の作戦が理解出来ました。
「そうですね。どうにかしてアッシュワースを追い詰めないと。」
「それは、我々にお任せください。」
確かにそのあたりの調査には、追跡や拷問などが含まれる可能性もあるのでしょう。私たちのやれる範疇を超えています。でも、念のため。
「私共にできることがあれば、いつでも協力いたしますわ。ご遠慮なくお申し付けください。」
伯爵は、立ち上がってご挨拶されました。
「ありがとうございます。では、カーターが戻る前に、そろそろお暇いたします。」
確かにそろそろ酔っ払って戻って来そうな時間ですね。私と先生も、立ち上がって、お見送りの態勢に入ります。
ただ、もう一つ確認したいことがありました。
「では最後に、主人が殺された理由というのはわかっておりますでしょうか?たとえば、主人がナイアック公爵の不正を調査していて、それがバレたために殺害された、とか。」
デュラント伯爵は首を傾げています。
「残念ながら、動機は判明しておりません。フィリップ殿下は、スタイヴァサント侯爵がナイアック公爵から、ローランド殿下の派閥に加われと言われて断ったためだとお思いのようですが。」
ピンときませんね。
「それは、殺人という大きなリスクを冒す動機としては、弱いように感じます。貴族の皆様が全員、ナイアック公爵から声をかけられて賛同されたわけではないでしょう。なかには断ったかたもいらっしゃるはずです。その方達をいちいち殺害していては、切りがないのではないですか?」
「おっしゃる通りです。そこも、アッシュワースが寝返れば、判明するかもしれません。」
そこまで待てるかしら?その前に、どうにかしてカーターから聞き出せないものでしょうかね。