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「家の従僕で、カーターというのですが、これが、おそらくナイアック公爵と繋がっていると思われます。身の回り品を見ても給料以上の金を遣ってますし、解雇されるかもしれないという噂を流したら、外出が増えています。不審な行動が多いし、何よりスタイヴァサント家に対して忠誠心を持っていません。
カーターにいよいよ引導を渡しますわ。首になった後、彼が誰に会いに行くか、殿下には、跡をつけることができる、信頼すべき部下がいらっしゃいますか?」
「大丈夫です。手配します。」
まあ、王族であれば、このような仕事にふさわしい人物を何人か抱えているでしょう。
「必ずしも、カーターが会いに行く人物が、花や酒の贈答品の手配をする人とは限りませんが、同一人物である確率も高いと思います。ナイアック公爵も、そんなに何人も悪事の手助けをする手下をかかえているとは思えないのです。数が多ければ多いほど、悪事が漏れる可能性が高くなりますからね。ナイアック公爵の秘密を知る使用人は、おそらく一人、せいぜいがところ二人ぐらいでしょう。
殿下の手配で、カーターが会いに行く相手の顔を確認していただけますか?」
「わかりました。決行はいつ?」
「そちらの用意ができたところに合わせます。いつ頃ならよろしいですか?」
「跡をつける人員を、できれば複数で用意したいので、3日ほどいただけますか?」
「では、3日後にカーターに引導を渡しますわ。午後一番で行いますので、その時間から待機していてください。後ほど何か用事を言いつけて、カーターをご紹介しますので、その時、殿下も顔をご確認ください。」
これで、カーター問題はまず大丈夫でしょう。
殿下は、大きな安堵の息をつかれました。
「いやはや、兄上の言う通り、スタイヴァサント夫人は、本当に聡明でいらっしゃる。リリアさんといい、お母上といい、侯爵が生前、どれだけ頼りにしていらっしゃったか、想像に難くないです。」
これには、私はため息でお答えするしかできませんでした。
「主人が家族に相談してくれていれば、何かが違っていたのかもしれません。一人で問題を抱えたまま、逝かせてしまったのではないかと、後悔しております。
殿下はなぜ主人がナイアック公爵に狙われたとお考えですか?」
殿下は顔を再び引き締めました。
「これは推測に過ぎませんが、おそらくナイアックは、協力者にならないか、と、スタイヴァサント侯爵に一番に声をかけたのではないか、と思います。リリアさんとローランドとの婚約のこともありますし。
しかし侯爵は、ナイアックに靡かなかった。喋り過ぎたと思ったナイアックが、侯爵を消したと考えています。」
リリアちゃんが俯いて声を震わせます。
「私とローランド殿下との婚約が、このような結果をもたらすとは・・・」
私よりも早く、殿下がリリアちゃんの側に駆け寄りました。
「いえ、婚約は、スタイヴァサント侯爵の温和なお人柄と野心のなさを見込んだ陛下がお勧めになったことです。決してリリアさんが気にすることではありません!」
「そうです。王家との婚約は政略的なものであり、リリアがどうこうできるものではありません。お父様は、国の為にも、家のためにも良いと思って婚約をお受けされたのです。
お父様の考えを勝手に捻じ曲げて受け取って、仲間に取り込もうとして失敗したのは、ナイアック公爵です。」
殿下が、私の言葉を引き取って続けます。
「ナイアックの身勝手極まりない魂胆が、侯爵を死に追いやったのです。婚約はなんの関係もありません。」
殿下に全面的に同意ですが・・・そうなると・・・一つ気になることがあります。
「フィリップ殿下、それでは、主人は、知り過ぎた、ということで消されたのでしょうか?主人がナイアック公爵のことを調査していたせいではないのですね?」
フィリップ殿下は首を傾げられます。
「その違いが何か重要なのでしょうか?」
違いは、今後の作戦に大きな影響を与えますので、はっきりさせたいところです。
「主人が行おうとしていた調査のやり方で、ナイアック公爵の悪事が暴けるかどうか、もしくは、新しい方法を探さなくてはいけないのか、の違いです。」
つまり帳簿すり替え作戦がまだ有効かどうか、ということですね。