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38 リリア・スタイヴァサント視点 (6)

帰りの馬車の中で、先生と今日の収穫を話しあっています。


結婚前の女性が一人で独身男性に会うわけにはいかないので、先生には、明日のお散歩にもついて来ていただかなくてはなりません。どうやって切り出そう。考えても仕方がないので、ここは、ズバリ言っちゃいます。


「フィリップ殿下に明日の朝の散歩を誘われてます。」


先生は、片方の眉を上げて、


「あら、殿下と踊ってらっしゃるのは気がつきましたけど、お散歩のお誘いもあったのですか?」


「ええ。それで・・・お受けしちゃいました。ローランド殿下と取り巻きの方々から婚約無効のこと随分言われちゃったので、ちょっとした意趣返しです。」


本当は違いますが、ラガーディア伯爵の書斎を探りに行ったことと、それで失敗しちゃったことは内緒にしとかないと。


へへっと照れ笑いをした後、


「ローランド殿下に、『逃した魚は、大きいぞ』って言ってやりたかったので。」


と、言いました。これは半分本当ですもん。


先生はクスクス笑っていらっしゃいます。


「まあ、ほどほどに。フィリップ殿下にも喧嘩を売るようなハメになると、スタイヴァサントの一大事ですよ。」


「気をつけます。先生、明日、ついて来てくださいませんか?」


「もちろんですとも。」


と、いうことで、私は、今日の、他の収穫の話に移ります。ラガーディア家の執事さんから、花のオーダーについて聞いた話をすると、先生も、


「ジュリアを通して、花屋に聞いておきましょう。」


と、おっしゃいました。


先生も、他のシャペロン達と話をしていて、商会や小売店を通して、贈り物を受け取っている貴族がいるという話を聞き込んでいました。


負けられない。明日は頑張ろう。





翌朝、私と先生は、馬車で公園の入り口に乗り付けましたが、フィリップ殿下は、お付きの者なしで、馬に乗っていらっしゃいました。


朝早いせいか、まだ散歩する人の姿もあまり見られません。スパイ同士の邂逅には、格好の時間です。


殿下は馬を降りると、私と先生の手を取って、それぞれ馬車から降りるのを手助けしてくださいます。


「おはようございます、殿下。こちら、私のガヴァネスで、アン・マーティアン先生です。」


先生も殿下にご挨拶申し上げました。殿下は私達両者に向かって、


「おはようございます。気持ちのよい朝ですね。早速ですが、川岸までご一緒しませんか?」


と、促します。おそらく人気がないうちに話を始めたいのでしょう。私も異存はありません。


「はい。ありがとうございます。」


殿下から差し出された腕を取って、二人で川岸に向かいます。先生は私たちの5歩後を、ぶらぶらとついて来てくださっています。


馬車から十分離れると、殿下は、にっこりと笑いながら、


「で、昨夜は、一体書斎に忍び込んで何をしていらっしゃったのですか?」


と、いきなり核心を突いて来ました。


小声だから大丈夫だよねー、と、先生の方をこっそりむくと、先生の眉は両方とも前髪に到達しており、背後からは冷気が立ち昇ってました。


わわわ。


長らくお待たせいたしました。リリアちゃん視点、(7)で終了いたします。明日から、お母様が復活いたします。今後ともよろしくお願いいたします。


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