37 リリア・スタイヴァサント視点 (5)
いや、いくらなんでも、そんな、みなさんの前で派手に誘わなくても。ブツブツ。
フィリップ殿下とダンスフロアで、まずお辞儀をします。
手を取り合って、クイック、クイック、スロー。
フィリップ殿下の口元に私の頭が近づきます。
「さて、どういうことだったか、お教え願えますかね。」
体が離れて、クイック、クイック、スロー。
「お邪魔をして申し訳ありませんでした。」
なんのお邪魔かは、追求いたしませんが。
また近づいて、クイック、クイック、スロー。
「いえいえ、こちらこそ、驚かせてしまいましたね。申し訳ない。」
あなたも、なんかやっていたんでしょう?
クイック、クイック、スロー、ターン。
「控え室と間違えてしまって。好奇心にかられて広げられてた本を見ただけですわ。」
クイック、クイック、スロー、ターン。
「おや、本当のところはお聞かせ願えないようですね。」
クイック、クイック、スロー、ターン。
またもや体が近づきました。フィリップ殿下が私の耳元で、そっと囁きます。
「ペルハイム・ナイアック」
・・・ああ、チキショウ、こう言われちゃうと、我慢出来ません。私はつい、聞き返してしまいます。
「共通のお友達がいるということでしょうか?」
でも、ここでの会話は危険すぎます。ローランド殿下と貴族令嬢達の視線が痛すぎます。ここは、フィリップ殿下の撒いた餌に食らいつくフリをします。
「いかがでしょう、詳しいお話は場所を変えて、ということで。」
フィリップ殿下も踊りながらの会話に限界を感じているようです。
「朝の新鮮な空気が吸いたいと思ってました。川岸公園での散歩にお誘いしても?」
私も覚悟を決めました。
「わかりました。では、明日でいかがでしょう?」
「10時に公園の入り口でお待ちしてます。」
曲が終了し、私と殿下は、ダンスの終わりを告げるお辞儀をします。
「承りました」