36 リリア・スタイヴァサント視点 (4)
(チッ)
心の中で舌打ちします。
「ご機嫌よう、ローランド殿下。」
淑女としてのマナーです。軽く膝を折って、頭を垂れて、礼はつくします。
数人の女性を引き連れた殿下は、居心地悪そうに
「ああ。」
とだけ答えます。ちゃんと挨拶ぐらいしろよ、とは思いましたが、これが彼の度量なのでしょう。ため息が出ます。なんでこんな奴のために引きこもりにならなきゃならないのよ。
とりまきの令嬢達は、ローランド殿下の反応の悪さに勢いを得たように、喋りはじめました。
まずは、エレノア・ラガーディア伯爵令嬢から。
「まあ、まあ、リリアさん、殿下から伺いましたわ。次の方を探してらっしゃるんですってね。焦っていらっしゃるのはわかりますけど、何も殿下の前でおやりにならなくても・・・もう少しお気遣いあってもよろしいのではなくて?」
よくもまあ、ローランド殿下の前に顔を出せるわね、という意味かしら。
次は、よくエレノアさんと連んでる、何処かの男爵令嬢だわ。
「あら、エレノア様、リリアさんは、これからスタイヴァサント侯爵家を支えていく方を探さなければならないんでしょう?」
そういって、私を上から下まで見ると、
「なかなかお声もかからなくて、本当、お気の毒ですわね。」
と、言いました。惹きつける魅力がないとおっしゃりたいのね。
名前は存じ上げないけれど、学園で何度かみかけたことのある子爵令嬢。
「次を探されるのも、大変ですわね。せめて、侯爵様の後ろ盾があればねぇ。」
侯爵という肩書きしか誇るものはないといいたいのかしら。ったく、ローランド殿下、一体何を言ったんでしょうね。
ローランド殿下の後ろから、フィリップ殿下がゆっくり近づいていらっしゃいました。
「やあ、ローランド。なかなか華やかで、楽しそうだ。」
途端に令嬢達の視線が、フィリップ殿下に集中します。ローランド殿下も見た目そんなに悪くはありませんが、なにせまだ17歳の坊っちゃまです。ダークブロンドを短くまとめた髪と、ターコイズブルーの瞳のフィリップ殿下には、大人の魅力・・・というか、色気で負けてます。
「ああ、兄上。なかなかお見かけしませんでしたが、今日は来ていたんですね。」
お願いだから、足がつくようなことはしないでくださいね、フィリップ殿下。私は、貴方と一緒に捕まるような目には会いたくないですから。
フィリップ殿下は、ローランド殿下に返事をしながら回り込んで来て、私の前に立ちました。
「帰国の挨拶をしなければならない人たちが色々いるからね。ようやくお楽しみの時間が取れるよ。」
フィリップ殿下の右手がこちらに伸びてきます。
「リリア嬢、では、一曲お相手お願いできますか?」
令嬢達だけではなく、ローランド殿下の冷たい視線が突き刺さりました。