34 リリア・スタイヴァサント視点 (2)
バン!
わああ!どうして私、フィリップ殿下に壁ドンされてるんでしょう?
「可愛い人、お答えいただけるまで離しませんよ。」
しゃがめば逃げられるかしら?
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時計の針を10分前に戻します。
「随分素敵なお花のアレンジですね。お庭の花をお使いになったのですか?」
「いえいえ、今回は、外部の業者にお願いいたしました。」
「あら、どこのお店ですか?私たちも今度、そこでお願いしたいですわ。」
「ええと、生憎私は発注しておりませんもので、わかりかねます。」
「どなたなら、お判りかしら?」
「伯爵が注文されたのだと思いますが。」
「わかりましたわ。ご挨拶の際に伯爵にお伺いしてみます。ありがとう。」
以上が、私と伯爵家の執事さんとの会話です。
聞き込みを終え 、控え室にもどりました。
怪しい。伯爵自ら発注ですか?いや、ないわー。伯爵がする夜会の準備なんて、せいぜいがとこ、招待状のリスト作りか、招待状にサインするか、ぐらいでしょう。それ以外のことは、ほとんど使用人任せのはず。それとも、ラガーディア家ではそういう習慣なのかしら。もう一回訊きに行こう。
執事さんを探して、家の奥に向かうと、書斎の前を通りかかりました。ドアが少し開いています。
花やお酒の発注をしたかどうか、確認したいなぁ。
ちょっとだけ、帳簿のぞいちゃだめかな。
ドアが開いてるなんて、神様の思し召しよねぇ。
ちょこっと行って、さっと見て、さっさと帰ってくれば大丈夫じゃないかなぁ。
大丈夫だよねぇ。
うん、大丈夫だ。
自分に言い聞かせて、あたりを見回し、人気がないのを確認して、書斎に走りこみます。
書斎にいるのを見咎められたら、気分が悪くなったので化粧室を探している、か、控え室を探していて、間違ったという言い訳を用意しました。
素早く後ろ手にドアを閉め、辺りを確認します。
書斎が真っ暗だったらどうしよう、と考えていましたが、幸いなことに机の上にランプがあり、机の周りと書棚を少し照らしていました。
目が暗さになれると、ラッキー!机の上に、帳簿らしきものが広げられたまま、置かれています。
机に駆け寄って、一番最後のページから、夜会のための発注の記録があるかどうか調べていきます。食料品の大きな発注はありますが、花はないですね、酒類もなし、と。
オッケー。あまり時間をかけると、それだけ見つかる確率が高くなります。今日のところはこれだけで十分でしょう。
よく考えたら、花屋さんに確認したほうが確実かも。やだわ。先走ってしまいました。さっさと逃げよう。
ドレスを翻して、ドアに向かいます。そうっとドアの取手を回してドアを開けていると、いきなり後ろから手が伸びてきました。
開きかかったドアが、手に押されて閉まります。
(わわわ。)
咄嗟に声が出ませんでした。恐る恐る後ろを向くと、にこやかに微笑みながら立っている・・・フィリップ殿下がいました。
「何をしていらっしゃるのですか?」
この問いはフィリップ殿下からです。私も同じことを聞きたかったけれど、声が出ませんでした。
うわー、さっき考えていた言い訳はなんでしたっけ?ああ、思い出せない!どうしよう!
そして冒頭に戻ります。