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今日は、マダムから紹介された花屋さんからのSOSに答えて、ジュリアちゃんと先生と一緒に、お店に伺っています。
花屋さんといっても、贈り物の花束のアレンジから、貴族の夜会などに切り花を届ける、お屋敷の庭師のための植物の苗を仕入れるなど、かなり幅広くやっているそうです。結構な力仕事が多いため、ご主人と二人の息子さんは、花の配達や、仕入れで忙しく、事務仕事は、店番をしながらの、娘さんと奥さんの肩にかかっているそうです。
奥さんは、帳簿を見せながら、大きなため息をついています。
「ちゃんとしたやり方を覚える前に、とにかく始めてしまったので、全てが自己流なんです。」
確かに、売り上げと仕入れが同じ欄ですね。ただ、売り上げであることが一目でわかるよう、売り上げの数字は大きな丸印で囲んであります。
わかりやすく奥さんに説明を始めます。
「夜会などのために特別に仕入れた花やその他の必要な支出に、十分な利益をのせなければなりません。人件費など、見えないところで確実にお金がかかってますからね。それを考慮して請求書の最終金額を決めるんです。請求書の金額から支出を引いたものがお店の純利益で、この店の命綱ですからね。だから、日によって仕入れたものをまとめるのではなく、こういう風に、発注ごとにまとめれば、ほら、一目瞭然でしょう?」
「ああ、なるほど」
奥さんは、熱心にメモを取りながら聞き入っています。
私は、といえば、例の革製の帳簿に、花屋さんの帳簿の数字を写しながら、書き換えていっています。革製の帳簿は、ジュリアちゃんが必要な時に取りに行くと言うシステムが出来上がっています。もう既に、4冊の帳簿が各お店に置かれるようになり、この花屋さんで5冊目です。
「それにしても、このアッシュワースさんって、随分なお得意様ね。月に何度も夜会を開いて花を注文するなんてね。」
私は、帳簿の売り上げに何度も名前の出てくる人がいるのに気がつきました。しかも、いつも夜会用の花をまとめ買いです。いかに裕福な貴族でも、夜会を月に何度も開くことはありません。ゆえに彼のオーダーは結構目立ちます。
「ああ、アッシュワースさんですか。この方は、いつも花のお届け先が違うんです。どうやら、違う方々が開く夜会に、お祝いということで、お花をお送りしているようですよ。主人が言ってましたけど、お花だけでなく、お酒などもお届けしてらっしゃるそうです。」
それはまた、随分な支出ですね。
夜会というのは、随分経費のかかるものですから、花や酒代を浮かせることができるのであれば、受け取る方もだいぶ助かるでしょうが・・・同時に随分な借りを作ることになります。貴族に繋がりを作りたがってる、商会とかかもしれませんね。
「どこかの大手商会の方なんでしょうね。こんな豪気なことができるのは。」
「いえ、アッシュワースさんは、ナイアック公爵のところの方ですよ。」
うわ。
「以前、ナイアック公爵のところにお花をお届けしたら、アッシュワースさんがいた、と息子が言ってましたから。現金払いの上得意さんなんで、間違えるはずがないですよ。」
うわわわ。