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翌日、リリアちゃんの()()ドレスの仮縫いのため、リリアちゃんとマダムの店を訪れました。マダムは張り切ってリリアちゃんのドレスを自ら針打ちしてます。待っている間に、私は、マダムの帳簿をチェックしています。


マダムは、忙しく動き回りながらも、私の方をチラチラ見ています。


「申し訳ございません、奥様。なかなか帳簿まで手が回らなくて。奥様のおっしゃる通り、帽子部門は一時閉鎖して、ドレスだけで店を回しているのですが、一番働き者のお針子が、家庭の事情で急にやめてしまったので、今、てんてこ舞いなんです。」


クリスティーナさんのことね。


「事情は判ったわ。でも、帳簿は店の経営の基本だから、おろそかには出来ないのよ。取り立ての方は、順調に行っているようね。」


「はい。右から左で、すぐに布地代に消えてしまうんですが。今日も仲買人さんにお支払いの予定が入っているんです。」


会計士は、ビジネスコンサルもやります。この手の話はお手のもんです。


マダムと話し込んでいると、先生が店に現れました。なぜかリリアちゃんよりも若い女の子と一緒です。


「奥様、リリアさん、お待たせいたしました。これは、私の妹のジュリアです。」


「ジュリア・マーティアンと申します。いつも姉がお世話になっております。」


あぁ。先生とよく似た、理知的な目をしています。13歳と聞いていましたが、えらいしっかりしてますね。まあ、この時代、皆早熟なのかもしれませんが。


「いえいえ、先生には、本当に助けられてますのよ。先生がなかなかお家に戻れないから、ジュリアさんもお母様のお世話で大変でしょう。お母様はいかがかしら?」


ジュリアさんは、にっこりしながら


「相変わらずです。」


と、差し支えのない返事をしています。


先生は、私が帳簿をチェックしているのを見て、会話に加わりました。


「奥様。お願いがございます。私と妹も帳簿の付け方を学ばせていただくことは可能でしょうか。妹も仕事を探さなければならないのですが、できれば、下働きではなく、手に職をつけて送り出してやりたいのです。もちろん、読み書きと計算の基本的なものは既に学んでおります。」


いやはや、先生にお母さんの話を振ると、必ずややこしい返事が返ってくるなぁ。


お立ち台でドレスに針を打たれているリリアちゃんも声をあげます。


「お母様、私も帳簿の付け方、習いたいです!」


「あら、リリアは、もう既に経験があるのじゃなくて?お家の帳簿はなかなかの物でしたよ。」


「まだまだです。学校の先生に聞いてもわからないことがいろいろあって。」


貴族の通う学校では、そんな科目はないのでしょうね。まあ、こうなったら、一人も二人も三人も一緒か。


「解りました。皆でがんばりましょう。」


マダムの帳簿を練習台に、さりげなく先生がカバンから取り出してきた、例の帳簿に、収入、支出、仮収入、仮支出など、欄と項目を分けていかに記載するか、指導し始めました。マダムの帳簿の2年前まで振り返って、その数字を使って、新しい帳簿に記載します。これで、真新しい帳簿も、手垢がついて、使い込まれたものになっていくでしょう。


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