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うふふ。まずは餌を撒かなくてはね。
「そろそろ、使用人たちの人員整理をしなくては、と、考えているの。旦那様が亡くなって以来、旦那様付きの使用人達もそのままだし、仕事内容も以前と変えていないのですよね。旦那様がいないから、従僕や従者達が手持ち無沙汰になっていないかしら。まだルディも従僕が必要な年齢でもないし・・・でも、彼らだけ解雇するつもりはないのよ。適材適所で、ふさわしい仕事に移っていただくこともあるでしょうし。まあ、そう言う事を考えていると、それとなくね・・・」
先生は飲み込みが非常に早いのです。
「奥様のお考え、解りましたわ。そういった話は、使用人たちの間で広まるのは早いでしょうね。」
先生が情報源かしらね。
「そういえば、明日あたり、リリアのドレスの仕上がり具合を見に、マダムのところへ行ってみようと思っているの。帳簿も確認してあげたほうがよいだろうし。ああ、そうだ。先生、大変申し訳ありませんが、またお使いをお願いできますか?」
「はい、何でしょう。」
「街の本屋に行って、帳簿を一冊購入していただけないかしら。それをマダムのところに持ってきてほしいのよ。練習用に使いますから。」
「ええと、それは、どちらの本屋か、心当たりはございますか?」
先生は、何気に確認を入れてきます。
「革製の立派な帳簿が、随分ダブってて、お安く手に入るらしいのよね。」
先生の目がキラッと輝きます。
「解りました。ちょうど欲しい本もございますし。」
「購入したら、直接マダムのところに来ていただける?そこで午後、落ち合いましょう。」
「はい。奥様。」
「先生も夜会に何度かでていただかなくてはなりませんので、マダムのところで少し、ドレスを見立てましょうね。」
「いえ、奥様、私は特に・・・」
「それくらいはさせてちょうだい。お願いよ。」
本当、先生には足向けて寝れません。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えまして。」
先生が、出て行った後、私も居間に移動しました。今日はさすがに疲れました。バートさんに、ワインを用意してもらい、長椅子にどっかり座ったまま、 幸せなスタイヴァサント一家の絵を、見るともなく眺めています。
うーん、帳簿のすり替えかぁ。難しいなぁ。
ワインを一口。
旦那様なら仕事柄、そのチャンスはあったろうけど。私じゃなぁ。どうしよう。
絵の中の旦那様は相変わらず、ルディ君によく似た穏やかな笑みを浮かべています。
私は、グラスを持っていない左手の人差し指と中指を伸ばしてチョキの形にします。そしてその手で、そのまま旦那様の目を狙います。
シュッ!
あーあ、畜生、難題を残してくれたなぁ。