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「密告者が誰なのか、探し出すことは必要ですが、成敗することによって、こちらの手の内を晒す必要はありません。むしろ、こちらがいかにのほほんと暮らしているか、その様子をナイアック長官側に伝えてもらって、油断していただきましょう。」
「事が済んだら踏み潰していいんですよね。」
先生過激です。
「当然です。」
「では、奥様、密告者が誰なのか、探り出す方法は、もうお考えなのですか?」
「アイディアはあります。でも、今は、もっと重要な案件から話し合いましょう。」
リリアちゃんが目を丸くします。
「お母様、これよりもっと重要な事があるのですか?」
「ええ。ナイアック公爵がなぜこんなことをしているのか、ということです。もし国庫からお金を抜いているのだとしたら、何の為か、ということですね。横領とは、かなり危険な行為ですが、なぜそれほどお金が必要なのか・・・」
リリアちゃんも私の言わんとするところに気がついたようです。
「ローランド殿下ですね。ローランド様を国王にする工作費用が必要なのではないですか?」
私は自分の娘の聡明さに、思わずにっこりしました。
「その通り。かなりのゴリ押しですから、色々なところにお金をばらまいて、ローランド派を増やす必要があるのでしょうね。」
話が皆に浸透するまで、ちょっと間を置きました。
「リリア、そこで貴方にやってもらいたいことがあります。」
リリアちゃんの瞳が輝きます。
「何でしょう?お母様」
「ナイアック公爵、いえ、ローランド殿下の派閥を知ることです。誰がナイアック公爵から恩恵を受けているのか、それを見極めることです。」
リリアちゃんがゴクリと喉を鳴らします。
「まずは、お茶会や夜会、お友達の集まりに積極的に参加してください。そこで、最近、暮らし向きがよくなっている貴族の方がいないか、贅沢なドレスや装飾品にお金を掛けているお嬢さんたちがいないか、見てきてください。」
リリアちゃんはちょっと不満そうです。
「お母様、そんなことでしたら・・・」
「リリア、これは非常に重要な調査よ!お母様は喪中ですから、そういった社交は出来ません。幸いにも貴方は新しい婚約者を探さなければならないし、積極的に出かけても、誰からも疑われません。この調査は貴方の肩にかかっているのよ!」
リリアちゃんの顔が再びパアッと明るくなりました。
「はい!お母様」
「夜会の時などは、先生に付添人としてご一緒していただきましょう。こちらのことは何も言わず、相手の情報を引き出す、聞き上手になる、そう言った話法を学ばなくてはね。何はともあれ、ナイアックとか、ローランドという名前をこちらから出してはいけませんよ。」
リリアちゃんが出さなくても、婚約話を知っているおしゃべり雀たちは、殿下の話題を振ってくるだろうし。うん。適任の上、安全な調査です。
「他の調査は、随時私がアイディアを出します。まずはリリア、色々なところから来ている招待状に、お返事しましょう。」
「はい、お母様!」
リリアちゃんは執事さんのところで溜まっている招待状を受け取るため、飛びだして行きました。やれやれ。
先生がその後ろ姿を見ながら、クイッと右の眉をあげます。
「で、どうやって、鼠を炙り出すんですか?」