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仮説:白紙の帳簿は、旦那様の職場にあるものと同じで、王室に属する。

仮説を支える事実:1)家にある帳簿ではない。2)数が10冊と多い。もっと大きな組織のための帳簿であるはず。3)帳簿が革製の立派なものである


まあ、こんな感じで、帳簿は旦那様の職場、つまり、王宮の財務省にあるのではないか、と、推測しました。ここで浮かぶ疑問は、旦那様がこの帳簿をどのように使うつもりだったのか?ということです。財務省の上の人から頼まれて、二重帳簿をつけるために購入した?だとしたら、誰かしらから白紙の帳簿について問い合わせがあってもおかしくないのではないかしら。誰にもわからないよう、慎重に帳簿を作った、ということね。共犯者の存在の可能性は薄いわね。職場から見本として古いやつを1冊抜いてくることもできなかった、ということは、職場の人にひた隠しにしたという方が理屈に合います。


とすれば、まずは、旦那様が一人でなんらかの不正をしていて、それを隠すために新しい帳簿を作った、ということが考えられます。(この可能性はスタイヴァサントにとってあまり喜ばしいものではありませんが)でも、コピー機のないこの時代に、10冊も帳簿を正確に記入して犯罪を隠すなんてことができるのでしょうかね。職場で写すことはもちろんできないから、その作業はすべて家でやらなきゃなりません。頭から適当な数字を絞り出すつもりだったのかしら?それで10冊分といったら、もう、どれだけ時間がかかるか、見当もつきませんね。


そこまでして隠さなきゃいけない不正帳簿を旦那様がつけていたとしたら、当然その利益を受けていたはずだけれど、それらしいお金の流れは我が家にはないなあ。


つらつら考えていても、仮説を検証できるわけではないので、まずは、旦那様の元の職場に行って、状況を確認することにしました。


王宮の財務省に連絡を入れて、建前としては、


「亡くなった主人の私物が有ったと思いますので、引き取りがてら、皆様にご挨拶できますでしょうか。」


という問い合わせをしました。財務省からは、


「明後日であればよい。」


というお返事をいただきました。


王宮に伺うまで、旦那様の書斎や寝室に、何か不審なものがないか、再度調べて時間を潰しましたが、特にこれと言って出てきません。旦那様を疑いたくないけれど、潔白を証明するはっきりとした証拠もないしな、と、悶々とした日々を送りつつ、ようやく財務省に行ける日となりました。


例によって、馬車で王宮に乗り付けましたが、門の警備兵さんたちによると、財務省のオフィスは、謁見室などのある中央部ではなく、西側の棟にあるそうです。馬車で西側の入り口に行き、入り口に待機している使用人さんに、財務省のオフィスまで連れて行っていただきました。


最初に通された部屋は、5人の財務官たちが、それぞれ机について仕事をしています。彼らの後ろには、大きな書棚があり、そこには、ああ、有りました。クリスティーナさんが見せてくれた記帳のない帳簿と全く同じものが並んでいます。


ふむ。まずは、あの帳簿が、王宮の財務官たちが使うものであることが実証できました。


財務官さんたちが皆立ち上がって礼をされましたので、私の方も


「在任中は主人が大変お世話になりました。ご挨拶が遅れましたこと大変申し訳ございません 云々」


と型通りのご挨拶をさせていただきました。中でも一番年若い財務官が、


「こちらこそ、一度お悔やみに伺って以来、ご連絡も差し上げず、大変失礼をいたしました。侯爵の抜けられた穴は大きく、我々も忙しくしておりまして・・・

スタイヴァサント侯爵の私物は、ナイアック長官のお部屋にございます。長官の部屋にご案内させてください。」


と、おっしゃっいました。


若い財務官についてナイアック公爵の部屋に伺います。重厚な家具に囲まれた、ガタイの良い中年男性が、ナイアック長官のようです。


ペルハム・ナイアック公爵は、ジリアン王妃の兄にあたる人物で、(貴族年鑑より)なかなか、見栄えのよい男性です。しかし、ご自分で、ご自分のことを格好良いとわかっている、ほら、あのタイプです。未亡人なんか、自分の歩いた地を崇めまくると思っているタイプ。


そうお思いだったら、そのように振る舞いましょうか。


「この度は、ご愁傷様でした。いかがですか、少しは落ち着かれましたか?」


「いえ、主人を亡くして以来、毎日ぼんやりしております。」


婚約破棄の時には暴れちゃいましたが、それ以外は、いかにも未亡人という生活を送っていますので、特に疑われずにすみそうです。ご挨拶代わりに、子供達の暮らし向きなど、とにかく当たり障りのない事を、取り留めもなく話させていただきました。


一通りのやりとりがつつがなく終わると、ナイアック公爵は、私の側で待機してくれていた財務官に、棚にあった箱を運んでくるように命じました。


「これが、ジョージの私物です。と言っても、さしたるものはないのですが、思い出の品ということで、お持ち帰りください。」


財務官が箱の中身を見せてくれたので、何げに中を探ってみました。小さなものですが、私の姿を描いた細密画もありました。本物よりちょっとよく描かれているな、なんて、くだらないことを考えていたら、公爵が、笑いを含んだ声で話しかけてきました。


「真面目が取り柄のジョージでしたからね。ご家族第一で、奥方を()()してましたよね。」


なんでしょう?なんでそんなところに力をいれるんです?おまけに公爵の声には、嘲りと見下しが明らかに存在しています。気に入らないわね。


最後のご挨拶をしてから、箱を持って王宮を退出しようとして、その理由にハタと気がつきました。


あいつ、旦那様の愛人騒動を知っている!


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