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「ああ、なんてことでしょう!」


リリアちゃんは既にすっかり同情してしまったらしく、マダムに駆け寄ってその手を握っています。ローランド殿下の裏切りが頭を過っているのでしょうか。


その間に、マダムの告白に呆気にとられていた男性(仲買さんと呼びます)が、ようやく気を取り直したのか、再び抗議を始めました。


「いやしかし、私も商会に支払いをしなくてはならないんだ・・・」


その言葉に前ほどの勢いはありませんでした。


リリアちゃんが私の方を懇願するような目で見ています。ここで、関わりを持つべきか・・・まあ、よいでしょう。


「私共は、リリアのドレスを多少まとめて注文するつもりでした。その金額は今、前納という形でマダムにお支払いします。仲買さん、それを受け取っていただけますか?」


仲買さんも直ぐには頷きません。


「お手持ちはお幾らですか?」


「いえ、現金の持ち合わせはございません。800シリングほど、小切手でお支払いしますわ。」


「だが、商会が受け取ってくれるかどうか。」


「スタイヴァサント侯爵の小切手ですわ。問題はないかと思いますが。どこの商会でいらっしゃるの?」


「ウッドベリーです。」


「では問題ないでしょう。先ほど私共の小切手を受け取っていただいたばかりです。」


「でも800では到底足りません。」


「まずは、この場を800で収めてください、と、申し上げているのです。マダムの店は、この街で1、2位をあらそうドレスメーカーです。ここに生地を納めなくなると、あなただってお困りでしょう?また新しい顧客をお探しになるのですか?マダムはそんなに困りませんよ。商会と直接取引すればよいだけですから。」


「そんな!」


あら、ちょっと怒らせてしまったかしら。ここは持ち上げないとね。


「いえ、無理に取引をやめたいと言っているわけではないのよ。色々な商会から素晴らしい商品を選りすぐって持ってきていただく、その手間はマダムにとっても、お支払いに値するサービスですから。ただ、帳簿を扱っていたご主人がいないから、お支払いについてはこちらでも一度まとめる必要があるし、そのお時間をいただけると助かりますわ。」


ちょっと躊躇った後、仲買さんが口を開きました。


「あの、では、1000シリングいただけますでしょうか。それなら、2週間ぐらいは余裕を差し上げることが出来ます。」


まあ、それぐらいで収まると思っていました。リリアちゃんのドレスは、5着ね。


「わかりましたわ。では、この小切手で。」


小切手を渡すと仲買さんは出て行きました。その足で商会に支払いにいくのでしょう。


マダムは頰の涙を拭きもせず私に抱きついてきます。


「奥様!ありがとうございます。ご恩は一生忘れません。」


いえ、別に助けたつもりはないのですけれど。


「ドレスの料金を前払いしただけよ。でも一体どうなっているのかしら。もしよろしければ、帳簿を見せていただける?今お支払いした金額が正当なものかどうか、確認したいの。」


マダムが、私たちの様子を心配そうに覗いていたお針子さんたちをかき分けて、帳簿を奥から持ってきました。


「主人がずっとつけてます。私が数字が苦手なもので。」


一瞥しただけでもうダメでした。


「・・・酷い。」


これは、ダメです。支出も収入も一緒くたに同じ欄に記載されているし、何処からのものか、何のためのものかもいい加減にしか書かれていません。ああ、旦那様の帳簿が懐かしい。


「誰からどれだけ支払いを取り付けるか、誰にいくら支払わなくてはいけないのか、ここ半年だけでもまとめなおす必要があるわね。現金がないのであれば、まずは未納のドレス代を取り立てにいかないと。」


そこまで聞いて、マダムは泣き伏してしまいました。


「奥様。私、私、実は、計算が・・・」


皆まで言う必要はありません。


「帳簿を貸していただければ、私が今夜やって置くわ。やり直した帳簿は明日の夕方持って来ますね。泣かなくても大丈夫。

そうね、とりあえず、リリアの採寸をしてはいかが?」


餅は餅屋。私が帳簿、貴方は裁縫ね。


涙を拭きながら、マダムが宣言します。


「お嬢様には、私が一世一代のドレスを仕立ててご覧にいれますわ。」


リリアちゃんが慌てています。


「いえ、学園用なので、あまり華美なものは。」


「シンプルでもビューティフルが、当店のモットーでございます!」


お任せいたします。


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