表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/105

3

教務室でその他の先生方と、事実関係を確認し、さて、次はどうしよう、と、廊下でぼんやりしていたところ、授業が終わったのでしょうか、一斉に子供たちが教室から出てきて、思い思いの方向へ歩いていきます。


まるで水の流れのようだわ。


ジュリアと同じような年齢の子供たちが、おしゃべりに興じながら、飛び跳ねるように歩きすぎていきます。


立ち止まっている私は彼女たちの視界に入っておらず、まるで川の中に立つ、杭のようです。


なぜだか突然、私の存在に気づいて欲しくなり、思わず通りすぎる女の子に声をかけてしまいました。


「ちょっと、ごめんなさい・・・あの、6年生の教室はどこかしら?」


声を掛けられた女の子は、少しびっくりしていましたが、すぐに元気よく、


「西棟の2階です!」


と返事をしてくれました。


「ありがとう」


うっ。返事をされたら、突っ立ったままではいられません。仕方なく西棟に向かいました。


6年生は卒業間近の、最終学年です。リリアさんが6年生だったので、咄嗟に彼女のいた教室を聞いてしまいましたが・・・


私は父がまだ元気だったので、ギリギリ学校に通い、卒業することができました。こんな大きな学園ではありませんが、卒業できたことで、私にはある程度の将来の見通しがつきました。


母を背負ってガヴァネスとしての、仕事を続ける。競争の激しいガヴァネスの仕事がなくなったら、お年寄りのコンパニオンとして、細々と給金をもらい、母の生活を支える。運がよければ、ひょっとしてどこかの学校で、教師としての仕事に就けるかもしれません。その頃には、ジュリアも独立して家庭を持つか、仕事について、家計を助けてくれるでしょう。まあまあな人生かしら。可もなく不可もなく。うん。


ぼんやりと歩く私に、


「あら、マーティアン先生!」


と声がかかりました。リリアさんのお友達の、ジョージア・ユークリス伯爵令嬢です。スタイヴァサントに何度か遊びにいらっしゃっているので、私も顔見知りです。


「なぜ学校に?」


ジョージアさんは、心配そうに眉を寄せています。ですが、私の答えを待たずに矢継ぎ早に質問が飛んできました。


「リリアさんのお加減はいかがですか?お見舞いに上がろうとしたのですが、調子が悪いと伺いました。まだお目にかかることはできないですよね?」


そしてまたもや返事を待たず、怒り始めました。


「まったく、ローランド殿下ときたら、時と場所も考えず、あんなやり方をする必要は全くないのに!お父様を亡くされたばかりのリリアさんに、なんて仕打ちでしょう!」


ジョージアさんの横に立っていたお友達らしき女生徒が、まあ、まあと宥めます。おっとりした声で、


「リリアさんだって、あんな支えにもならないような殿方はいらないでしょう。」


と、言いました。うわ。


いや、ニュージェネレーション、なかなか言いますね。奥様も同じようなこと言ってたけれど。


そう思った瞬間、私の使命を思い出しました。


「ジョージアさん、私今日は、リリアさんの汚名を晴らすためにも、リリアさんとロヴィーナさんのことを少し伺おうかと思って、学校に来ましたの。ちょっとお時間よろしいでしょうか?」


ジョージアさんはためらいません。


「ええ、もちろん」


「ロヴィーナさんとリリアさんがやりあっているところとか、見たことありますか?もしくは、そういった話を聞いたことは?」


考えこみながら、ジョージアさんが返事をします。


「うーん、ありません。そもそもリリアさんがロヴィーナさんのことを話題にしたこともないし。ロヴィーナさんがローランド殿下とイチャイチャしてるって、ご注進にあがる人もいたようだけれど、リリアさんは、それどころじゃない、って感じでしたよね?」


同意を促すように隣の女生徒を向くと、女生徒は、


「ええ、そうね。リリアさんはロヴィーナさんにまったく関心がないように見えました。でも、ロヴィーナさんは、リリアさんの動向が結構気になっていたのではないかしら。リリアさんのことを聞きまわっていたもの。」


え?聞き捨てなりませんね。


「それはいつ?どんなことを聞いてまわっていたのですか?」


ついつい問い詰めてしまいました。


「リリアさんが学校にいるかどうか、ってことだったと思うのですが、いつだったか・・・何人かの生徒に声を掛けていたから、他の人だったら覚えているかもしれません。」


私は、何かに近づきつつある興奮を覚えました。面白い。


ジョージアさんが、


「次は家政科の時間だから、みんなに聞いてみます!」


と、申し出てくれました。家政科だったら女の子だけだし、ちょっとぐらいおしゃべりが弾んでも大丈夫よね。


「お願いします!私は、このあと養護室に話を聞きにいきますので、授業が終わったら、教務室の前でお目にかかれますか?」


「はい!では後ほど。」


私も少女たちも、使命感に駆られて足取り強く目的に向かって歩き出しました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ