1.大いなるものの祝福
一寸先も見えぬ砂嵐の中、 黒き乙女が1人ひっそりと歩を進め、空を見上げる
天高く雲の上 空が白く光り、1匹の赤き竜が流星のごとく舞い落ちて、地を見据える
視線が交わっていることなど知るよしもなくて
互いに目を背け、少女は歩き、竜は瞼を閉ざした
再びそれが交わるとは誰が思いついたものか
大いなるものの祝福、在れ
全くどうしてこうも悪天候にみまわれるのか
この終わりの見えない砂漠で
昨日の砂嵐で予定より随分遅れている
昼は暑い上、太陽が照りつけるくせに
夜は寒く、さらに追い打ちをかけるように雨が降る
さらに熱魔力加工を施されたコートを着ていても寒いとは
文献を読んで想像していた以上に厳しい場所だ
このロットテェペッチ砂漠は
そう黒き乙女、もとい、プロテアは思いながら水を少し口に含む
ポチャと水筒が音をたてた
何とはなしに視線を上げる
太陽が空にぽつり、2つ浮かぶだけの面白みにかけた空が広がっているのだろうと思いきや
特徴的な影が空から落ちていく
「ドラゴンか...随分珍しい
墜落しているなんてな」
秒数を数える間もなくドラゴンらしき影は地響きをたて土煙をあげた
おそらく竜が落ちたであろう場所へ行く
しかしそこに竜の姿も影も鱗1枚すらもない
あるのは、いや、いるのはうつ伏せに倒れている男
遠目から見て180cm以上はあろうか
一目見て初めに思ったことは 赤
辛うじて下半身は黒っぽい服装ではあるが
上半身が目が痛くなりそうな程に赤い
ワインレッドのシャツに真っ赤な髪
地毛か?それと瞳はどうだろうか
予想としてはコイツが先程見た竜のはずだが...
プロテアは赤い男を仰向けに転がし、頬を軽く数回叩いた
暫く起きそうにない
再び男の全身を見るが
シャツの前部分の左半分は黒いがそれでも目が痛くなりそうな赤であった
どうしても起きそうにないので
周辺を散策する
しかし、また暇になってしまったので男を観察することにした
ただでさえこの砂漠は赤い絨毯と呼ばれるほど
赤い土が特徴的な砂漠だ
植物も何故か赤色をしたものが多い
そんな中で何故このような真っ赤な男を見ていなければならんのか
左頬に獣にひっかかれたような傷が3本あり
牙が薄い唇から覗いている
彫りが深い顔立ちで騒々しそうな顔をしている
決めていた予定はもう破棄しようかと考えていた日暮れ頃、ようやく男が目を覚ましたようだ
「......ここ...何処だ......」
ああ、やはり目も赤いな
「ここはロットテェペッチ砂漠
あと3日、4日歩けば街に着くと思うよ」
起きたばかりの男の質問にプロテアが答えた
他人と
「えっと、あんたは一体どちらさんで?」
「相手に尋ねるより先に自分のことを言うべきでないかな?
大したことはしていないが、一応君が起きるまで待っていたのだから」
男は顎に手を当て言った
「んー、確かにそっか
うん、そうだな
俺はストック、ストック=グラジオスだ
よくわかんねーけどあんたが助けてくれたっぽいし、ありがとよ
そんで、あんたの名前は?」
「私はプロテアだ
ひとつ聞きたいのだけれど、君はガベーラ族の者か?
竜に変化しているように思えた
それに瞳や髪が赤い」
そうプロテアが聞けば、ストックと名乗る男は少しばかり驚いたような顔をした
「うちの一族のこと知ってんのか
あんま有名じゃないと思うんだけどよく知ってんな」
「ガベーラ族といえば身に赤を宿し、赤を力の象徴とする為、赤を好む傾向にある少数民族
何らかの儀式を行うことで他の生命体へと姿を変える能力がある
ただ、その身の赤と能力が貴族らの目に留まったが為に、奴隷商人による人攫いの被害にあっていると聞いたよ」
「めっちゃ知ってんな
てかそうなんだよ、チビどもが攫われかけたことあったぜ
あんた美人だし頭もいいみてーだしすげーな」
「いや、多分野の本を読む機会があっただけでいつの間にか知識がついていただけさ」
そう言ってプロテアはニコリと微笑む
「それにほんと、綺麗な顔してんなー、なんか髪で半分隠してんのが勿体ねーな
漆黒の髪に青い瞳で鼻筋通ってて
コートにジーンズで地味そうな格好してても
なぁんか映えるし
俺もそんな美人に生まれたかったぜ」
「...そうかい?」
少しばかり困ったような顔でプロテアは言葉を返した
「ところで君はどこへ向かっていたのかな?
落ちてきた理由も是非聞きたいのだけれど」
癖なのかストックは再び顎に手を当てる
「んー、ハッキリ目的地、みてぇなのは決めてねーんだけど、とりあえず隣町までいくつもりだったかな
あと、落ちた理由なんだけどさ
最近ここら辺って雨降ったり嵐だったりしたろ?
砂漠なのに
数年に一度の大雨とかでもないしよ」
プロテアは軽く頷く
「実はここ最近、龍がこの辺りの空を縄張りにしてるらしくって
昼は飯食いに出てって、夜中は寝床にしてるみてーなんだわ
明け方ならまだ寝てるかと思って近く飛んでたら目ぇ覚ましちまって雷食らわされてよ」
ハハと笑うストックだが、本来その程度で済むようなものではない
「体勢立て直そうとしても、痺れちまってあんまり上手い具合に動かなくて
そのまま落っこちまった、ハハ」
「タフだね
龍の雷を受けてそう平然としていられるとは、
それもガベーラ族の特徴か何かかい」
「多分それもあるんだろうけど、
俺、一族の中でも身体は頑丈だと思うぜ
もしかしたら1番硬ぇかも」
力こぶをつくりそう言って笑うストックに釣られ
プロテアもふっと笑った
「あのさあ、今いいこと思いついたんだけどさ
あんたさえ良ければ一緒に旅しねーか?
不器用だけど力は強いしきっと役立つぜ
移動に楽だからドラゴンになってたけど他のにもなれるし
だからっお
「ガベーラ族についての記述で最近じゃ珍しいものを見た」
そうストックの言葉を遮るようにプロテアが話し出す
「ガベーラ族は太古から大抵のことは決闘で決めるらしい
19になる前日の夜、独りで集落を抜け、成人になる為、旅に出る
そして二十歳となって次の成人の儀の前日に戻り、くじで当たった者と闘う
そして、勝者のみが成人として認められ敗者は再び旅に出る
最近はそういう文化や風習は廃れてきたようだから珍しいものだと思い、覚えていたが
恐らく貴様もそれだな?」
ほとんど沈んだ2つの太陽の光がプロテアの背後から強く射し
あまりよく顔が見えない
「え、あっ、ああ」
貴様...?...口調が変わったような気がする
「ふーん、で
旅がしたいと言ったか
それに付き合う私にとってのメリット、デメリットはなんだ」
やっぱり変わってるよなあ、なんかやばい事言っちゃったか
急かされたようにストックは言う
「デメリットは、えーっと、食料とか見つけなきゃいけない量増えたりするで
メリットは移動手段が増えるのと戦力が増える...とか、か?」
「デメリットはストレスがたまる、足枷ができる、だ
食料など知識さえあれば何処だろうと手に入る
それに私が1人なら充分行けるところが貴様は行けない、意見が割れるなどということもあるだろうからな
メリットの移動手段、戦力は合っている...か
もし...」
「...っ」
太陽が沈んだ
思わず息を飲み込んだ
何故って
夕闇の薄暗さの中
一際光る彼女の右眼が美しかったから
「もし、私の足を引っ張るようなら速攻解消する
それと、すまないな
さっきのは他人用の接し方でこれが素だ
旅の仲間となると言うのに気を遣いたくはないからな」
見蕩れてしまって聞こえていても返事が出来なかった
「ストック」
そう呼ばれてハッとした
もう辺りは闇に包まれていて日の入りの時間に合わせてつくようにしておいたらしいプロテアの魔道具の明かりが
チカチカと眩しく瞬いている
「ストック」
もう1度呼ばれて返事をした
「ごっごめん
俺があんたの足引っ張ったら協力関係は終わりって話だっけ
わかった、気も遣わなくていい
俺頑張っからよろしくっ!」
ストックは気合を入れるように両手を握ってみせた
「...元気があることは良い事だ
改めてよろしく、ストック
日が暮れたから野宿の準備と思ったが
ストックは飛べるのだったな
どれ程の速さが出る?」
「ドラゴンになればあと15分くらいでプロテアが言ってた街に着くと思うけど
ドラゴンってさ、翼で飛んである程度の高度まで達したら滑空しながら魔力で速度維持とかしてる、みてーな種が多くて
俺もそれなんだよ
だから人を乗せて飛ぶのはちょっと無理っぽいかな」
「そうか、恐らくそれだろうとは予測していたから
大丈夫だ
他に変化出来るものは何だ」
「大鷲がいる!
あー、けど足にずっと捕まってもらうわけにはいかないし
んー、ここ礫砂漠だし馬で行けるかあ?
乗れるか?」
「構わない
ただ、あまり馬に乗る機会が少なくてな
思うように乗れるかはわからんぞ」
「かまやしないさ
俺も人を載せたことは無ぇんだけどさ」
「...不安しかない、歩く」
プロテアはスタスタと踵を返し歩き出した
「じゃじゃじゃじゃじゃあっ
えっとぉ...捕まってりゃいいさっ」
ストックは前を歩くプロテアの手を取り走り出した
ドロリと人の形を成していたストックは溶けだし
赤いそれは次第に別のなにかに変形していく
肌は暗い色になり艶のある毛が全身を覆う
プロテアは宙に投げ出され
馬となったストックの上に跨った
反射的に馬の首を抱えるように掴んだ
ストックはプロテアを乗せ、風のように駆け出した
「思っていた、より振動が...ある
だが、気分は悪くない」
そうだろうと答えるようにストックはいななく
地平線から顔を出す月は静かに地表を照らした
彼らの出会いを祝福するかのように
初投稿です!!
これから頑張って書きますので
よろしくお願いします!!
どういう所がいい、悪いとかもしありましたら
コメントとかしていただけると嬉しいです