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第5話

第5話では、恋愛系、コメディ系を少し多めにしましたよ!

「楓ぇぇぇぇぇぇぇぇ! 」

喩菜ちゃんの声が食堂に響き渡る。

いつもの喩菜ちゃんからは感じられないような、不思議な雰囲気が漂う。


「嘘でしょ、嘘でしょ、嘘でしょ!

この胸から見える骨は何!?

嘘って言ってよ! ねぇ、ねぇ!!

イヤァァァァァァァァ! 」


先生はこっちに振り向き、ニヤニヤ笑いながらナイフを片手にこう言った。


「あらあら。熱い恋心、いいねぇ。

俺はとても彼女を命に代えてまで守ろうとは思えないなぁ。

いやぁ。若い命をこんな根暗で地味な、いてもいなくてもどうでもいい存在に捧げるなんて、ある意味すごいよ。てか、すごいっていうよりも、単なるバカ? 」


これを楓が聞いていたら、間違いなく激怒する。

いや、そんなんじゃ済まないかも。


てか、こんな危機的状況でこんなこと考えるなんて、私ある意味サイコパスかも。

心の中で自分にツッコミをいれる。


と、その時……。


「は? 今てめえ、なんつった? 」

低くて背筋が寒くなるような声が、緊迫した雰囲気の食堂に響く。

先生はキョトンとした顔をしている。


今のって……。もしかして……。

喩菜ちゃん!?


信じられないが……そうだった。

「私のことをけなすなんざはどうでもいいわ。

けどよぉ、バカとかって言って、楓のことを貶すのはゆるさねぇ。

今からお前殺してやっから、あの世で楓に謝りやがれ!! 」



それを言ったのは確かに喩菜ちゃんだった。

確か以前チラァァっとだけ噂で聞いたことがあるようなないような気がする。


喩菜ちゃんが5年の時にこの聖ハスカに転入してきた理由……。


それは、喩菜ちゃんは実は元ヤンで、

先生からも恐れられて退学になったって……。


な訳ないと思ってながしてたけど、

まさか……本当だったなんて……。


喩菜ちゃんがポケットからキラリと光る何かを出す。

それは、ナイフだった。


「生徒達で殺し合いができるようにくれたナイフ……。

ップ! ププププッ! ありがたく使わさせてもらいまぁす!! 」


喩菜ちゃんは口を押さえて笑いながら

持っているナイフを小刻みに震わしている。

おそらく笑っているからだろう。


喩菜ちゃんは先生めがけて走っていく。それはまるで、心のないロボットのようだった。


先生は軽く驚いた表情を見せた。

けれどすぐにニタリと笑った。


「はっ! 狗流派……。

お前は、バカか? 俺は22人も殺したんだぜ? こんな俺に、何の考えもなしに突っ込んでくるなんて、バカも同然じゃないか……! 」


私だったら、こんなこと言われたらムカつく。けど、喩菜ちゃんは何の反論もしないし、一瞬立ち止まった……というのもない。


本当に、心が無いんじゃ?

と、疑ってしまうぐらいだ。


そして残り一メートルほどの距離に喩菜ちゃんが近づいた時、先生がナイフを取り出し、思い切り振り上げた。


だが、それよりも一瞬早く喩菜ちゃんがナイフを振り上げ、先生に向かって振り下ろした。


スパッ!


と、音がなる。


血が飛び散る。


「うっ……」

皐がまた顔をしかめて口を抑える。

地味に皐が一番可哀想。


「なっ……!

マジでやるのかよ……」

先生は苦しそうな表情を見せて、腕についた傷口を抑える。


「人を何十人も殺してるてめぇに言われたかぁねぇよ!

しかも、さっきから私が言ってんだろ! あの世で楓に謝れって! 」


先生を睨みつけながら、強い口調で喩菜ちゃんは怒鳴り上げる。

先生はその威勢に少しひるむ。


先生は軽く舌打ちを打つと、回れ右をして逃げて行った。

いや、逃げるというよりは、立ち去る……の方が、まだダサく聞こえないかな?


「喩菜……? 」

皐は、喩菜ちゃんの気分を害さないような言い方で言った。

「ん? あー。私元ヤンって言ってなかったっけ? 」

喩菜ちゃんは、当たり前のことを言うような声のトーン、言い方でいった。


……。


「「言われてございません! 」」

皐とかぶった。

喩菜ちゃんは、「そっか」と言うと、ほのかな笑みを見せた。


……。


私たちは喩菜ちゃんと一緒にいるのが怖いので、

静かにその場を立ち去った。


**


「いやぁ……。さっきは恐ろしいものを見ましたなー」

皐はドヤ顔的なのを見せた。なぜ?


「ねー。恐ろしかったねー」

私も自然とドヤ顔になってしまう。


恐ろしいと言いながら、なんとなく予想はついていたなーなんて思った。

こういうマンガみたいな小説みたいな展開のストーリは、必ず地味な人が思わぬ動きをするから。


ラブコメ熟読歴10年のこの私にはわかる。(2歳からラブコメ読んでます)


「でも……楓死んじゃったね……」

皐が苦い顔をして言った。

絶対あの楓命の女たちがまだ生きてたら、泣き叫んでいただろうなー。

楓命の女たちが泣いているところが目に見えてわかる。


「ねー。でも皐が死ななくてよかったよ」

私はニッコリ笑いながら言った。そして、皐の頭をクシャクシャッとした。

皐もニッコリと笑った。


**


外を確認する。

陽は真上……。ちょうど南中している。

今は何時?

腕時計に目をやる。11時20分。日没まであと5時間ちょいか……。


「お腹空かない? 」

こんなときに言うセリフか? って思うけど、いった。

さっき喩菜ちゃんが料理作ってくれようとしたけど、先生に邪魔されて作れなかったんだよね。

「うん。空くねー」

皐もボーッとした声で言った。

なんか気のせいかもしれないけど、皐が心なしかテンションが低い気がする。

こんな状況でテンションが高いのもおかしいけど。


楓が死んでから……。やけに、テンション低くない?

ま、まあ、友達死んだらそりゃぁテンション低いかもだけど、

さっきから言動一つ一つに作り笑顔が入ってるみたいな感じで、

テンション……。低くない?


まぁいっか。


「ねぇ、さっき喩菜ちゃんにお昼ご飯作ってもらう途中だったし、

作ってもらわない? 」

「あ、そうだねー」

また皐がテンション低めに答える。

き、気にしすぎ! まさか……ね?


「ゆ、喩菜ちゃんに電話して食堂に集合する? 」

皐は私の言葉を聞いて、無言でうなづいた。


……。


**


電話で食堂に来てねと喩菜ちゃんに言ってから5分が経ち、喩菜ちゃんが小走りで食堂に走ってくるのが見えた。

「あ、喩菜ちゃん! こっちこっち! 」

喩菜ちゃんに手を振ると、喩菜ちゃんも優しく微笑みかけてきながら手を振り返してきてくれた。さっきの出来事がまるで嘘のようだ。


そして喩菜ちゃんがすぐにカレーを作ってくれた。

そのカレーを食べているときも、やはり皐のテンションは低かった。

き、気にすんなって!


それよりも、食堂からはスカイツリーが見える。

朝、空は曇っていたが、今はすっかり晴れている。


現実からぶっ飛んだような状況のときに、こんな感じで現実をしっかりと噛みしめることが出来ると、なんとなく癒される。


「……りちゃん? ……おりちゃん? 紫織ちゃん!? 」

「ん? 」

呼ばれていることに気づかなかった。

ボーッとしすぎた……。

「先生来る前にもう行ったほうがいいよ」

喩菜ちゃんがメガネをカチッと上に持ち上げながら言った。

今度は皐を私が呼ぶ。しかし何度呼んでも反応しない。


……。


皐の頭をペシリと叩く。その途端にハッとした表情で私のことを見つめる。

「よし。行こう! 喩菜ちゃん、カレーごちそうさまでした! 」

喩菜ちゃんはいつものほのかな笑みで私たちを見送ってくれた。


**


怪しい……。

恐らく何人かのカンのいい人ならば気づいていると思うけど、

さては皐……。


「楓のこと、好きなの!? 」

「え、えぇ〜!? 」

突然度肝を抜かれたかのように皐は驚いていた。

何もそんなに驚かなくても……。


「な、な、なんで!? 」

フッフッフッ……。

なぜなら私は……。

「ラブコメ熟読歴10年だからねー! 」

「あ、そうなの……って、ちゃうくて! なんで……。どこで分かった? 」


皐は顔を真っ赤にしながら私と目をそらす。


ここでまた新たに、叶わぬ恋が誕生した。



残り14人。日没まであと5時間。

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