第3話
私は今まで、『嫌なこと』を、
呆れるほど体験してきた。はず。
けど、こんなに嫌だ……いや、正確には、こんなに恐ろしくてstressが溜まるような体験は初めてだ、とでも言おうか。
“殺人ゲーム”
その理不尽な理由で起きた、
いや、理由なんてないのだ。
理不尽に起きたその殺人ゲームは、
人をたくさん殺している。
山下、藤原、久我……。
たったの一時間、正確には45分で、
3人も殺すなんて。
恐らくこんな事件は、
日本的にも、世界的に見ても、最恐だろう。
こんなことが起きている学校なんて、ここが初めてだろう。
「いや、案外そうでもないっぽいよ」
山崎 皐は、パソコンで、
『殺人ゲーム 起きている場所』
と、ネットで調べていた。
ここはパソコン室。
ネットは正常に使える。
エレベーターも時計もなくしているのに、パソコン……ネットは使えるなんて、何を考えているのだ?
私たちで、遊んでる?
「世界では日本とサウジアラビア、
ワシントンでも起きてるみたいだけど……」
皐はパソコンの『Goooogle』を見ながら、そう言った。
パソコン室は、皐がマウスをクリックする音と、キーボードを打つ音しか聞こえない。
耳が痛くなるほど静かだ。
殺人ゲームが起きていることを忘れさせるぐらい、とても静かだ。
「しかも、日本でこの学校以外でも、この学校以外のもう一校でも起こっているらしいよ」
え!? 日本でこの学校以外でも起こっている!?
そんな……。まさか!
皐が見ているサイトを見る。
『Y校掲示板』というものの書き込みで、
『殺人ゲームが起きてるらしい。
聖ハスカ小と心ヶ丘小だって。殺人ゲームとかw草生えるわww大草原不可避ww』
と書いてある。
他の書き込みでは、
『え、聖ハスカ!? あの超がつく名門校じゃん』
『心ヶ丘ってうちの近所にあるんだが……』
とかって書いてある。
「心ヶ丘……? 聞いたことない」
私がそうポツリと言うと、皐は、
「あれ? 前言わなかったっけ? 」
と言った。
ん?
なんの……こと?
私が混乱していると、皐は説明をしてくれた。
「実は私に、お兄ちゃんがいたの。
一誠……。本田一誠。
だけど、お兄ちゃんと一緒に聖ハスカ受けた時、私だけ受かってお兄ちゃんが落ちちゃって……。
それで夫婦喧嘩が始まって、離婚。
もともとお兄ちゃんは山崎一誠だったけど、離婚して、47のジジイと結婚したらしいから、本田になったんだって。で、そのお兄ちゃんが心ヶ丘に行ってるの」
「え、マジで!? 」
こんな近くに心ヶ丘関連の人がいただなんて、殺人ゲーム主催者側も何かを狙っているのだろうか……?
「でも……。じゃあ……。一誠君も死ぬ可能性があるって……事だよね……? 」
聞いちゃ悪いっていうのは分かりながらも、聞いてしまった。
私にはお兄ちゃんもお姉ちゃんも、弟も妹もいないから、
兄弟が死ぬってどういう気持ちになるのかはわからない。
けど、辛いのは確かなんだろうな。
「まぁ、あいつバカだから死にやすいんじゃん? 」
ニッコリ笑いながら皐はそう言った。
けど、声は震えていた。
「ハハハ……。そうだよ。死にやすいんだよ。
誰よりもあいつはメンタル強いし、バカだけど、優しいし……。
死なないでよぉ!!!!! 」
皐はキーボードの上に腕を乗せ、腕の上に自分の顔を置いて泣き出した。
『mcbきmq3.ı』
と、意味のわからない言葉がパソコンの画面に出る。
「ゴメン……」
私がそう言うと、皐は腫れた目で、「大丈夫」
といい、笑って見せていた。
時計を確認する。
「9時23分49秒……。
あと11秒で私の誕生日の時間になる」
(紫織は9月24日生まれ)
「……5、4、3、2、1……」
0のタイミングで私はこう言った。
「ラッキー! 」
私がこう言うと、皐は不思議そうな顔をして、私の事を見下すような、変な人物としてみるような、そんな目をしてこう言った。
「何がラッキーなの? 」
まあ、確かにそうなるわな。
私は昔、本で見た事を話した。
「なんかね、おまじないの本を小3の時読んだの。
そしたら、その本に
『自分の誕生日の時間になった時に、ラッキーと言うと、その日にいい事が起こる』
ってのを見たの」
「でも目の前で人が死んでる時点でラッキーではないけどね」
皐のその言葉を聞いた時、確かにと思った。
そしてさらに、自分はこんな時になんておまじないをしているのだろう
と考えたら、おかしくって笑ってしまった。
その時である。
パソコンの画面が真っ暗になった。
皐と私はパソコンの電源ボタンを何度も押した。
しかし、何度押しても反応しない。
電池が切れたのか?
けど、学校のパソコンだと、常に充電されてそうだけどなぁ……。
なんて考えながら、他のパソコンを開いて
電源ボタンを押した。
しかし、反応しない。
え?
多少……いや、かなり焦っていると、皐がかなり大きめの声で言った。
「こっちもつかないよ!」
……。
多分、先生がなんらかの方法を使ってやったのだろう。
パソコン室のブレーカーを落としたのか?
いや、だとしたらパソコン室の電気も消えるはずだ。
なぜ?
その途端、ある事を察した私は、皐の手を思い切り引っ張ると、
「早く逃げて! 」
と叫んだ。
「……! 」
皐が、先生が普段使っている、先生専用のパソコンを見て、口をパクパクさせ、
絶句している。
その先生専用のパソコンのうしろから、ぬっと何かが出てきている。
私はそいつが誰だか、すぐにわかった。
「せ、先生……!! 」
そこには、先生が立っていた。
気持ちの悪い、奇妙な笑い方をして、ニヤニヤと笑いながら。
ブレーカーを落としているわけでもないのになぜ使えなくなったのか。
私は前、聞いた事がある。
この学校では、先生が先生専用のパソコンで、生徒たちの使うパソコンの電源を
切る事ができるらしい。そのやり方を知っているのは先生たちだけだそうだ。
この学校には今、先生はあの狂った野郎しかいない。
だから、あの5秒ほどでわかった。
いま、電源を切ったのは……。
あの先生なんだ……と!
「いやぁ。ここにいたのか。
いや、まぁ、結崎と山崎は頭がいいから、おそらくパソコン室に来るであろうという予想はついていたがな」
先生が何か言っている。しかし、私はそんなことはどうでもいいのだ。
なぜ、先生は私たちが心ヶ丘小学校の記事を見終わるまで
あそこに隠れていたのかが知りたい。
「ん? ああ。それはだな、結崎には関係ないが、
山崎の双子の兄の一誠。あいつが死ぬかもしれないという事を知らせて、
山崎が絶望していく姿を見たかったからなんだよ」
……!
最低だ。最低すぎて、言葉が見つからない。
皐は青ざめている。
「まあいい。さあ、茶番はここまでだ。
早く逃げないと、KOROSUYO? 」
っ……!
「ま、まって。もう一つ……。
さっきの紫織のために駆けつけてきた人たちは、どうなったの? 」
皐が恐る恐る聞いた。
確かに私も気になる。
まさか、死んでなんかいないよね?
「だいたい察せるだろ? 頭いいんだからさ……」
サッと血の気が引くのがわかった。
「殺したよ。ナイフでスパッと……ね? 」
私はその場に凍りついた。
そんな!
確かあの場には、12人ほどいた。
久我さんを入れないで……。
11人。
合わせて14人も死んでるじゃぁないの!
残り、22人……。
「あ」
私が青ざめて、震えていたら、突如先生が一言言った。
「あとで放送で流すけど、
家庭調理室に生徒同士で話し合える携帯と、
殺し合いができるようにナイフを置いといたよ。
じゃあちょっと、放送室に行ってくるね」
何考えてんの?
私はそう言わざるをえなかった。
なんか、先生……。
「何がしたいの? 」
そう私が先生に聞くと、
「生徒たちが楽しんでいる様子を見たいの」
と、答えた。
残り22人。日没まで、あと7時間15分。




