2話 過去の記憶
混濁する意識の中、走馬灯のようにリリィの記憶が映像として写しだされる。それはどんどん過去へと遡っていく。
「映画みたい」と私はつぶやいた。
そして、この体の少女リリィについて思いを巡らせる。
リリスティアことリリィはこの国の第一王女だ。
母親は父に見初められた平民出身だが、裕福な商家の為、妾の子にはなるが待遇は悪くない。
ただ、母への嫉妬心故に正紀妃からはもちろん疎まれている。
リリィは母親譲りの艶やかな黒髪に、潤んだ漆黒の瞳、雪のように白い肌を持つ、年のわりに大人びた容姿をしていた。
リリィには4つ上の兄と1つ下の弟がいる。
二人とも正紀妃の子供だ。
兄はリリィ優しく接してくれるが、弟は何かにつけてリリィにちょっとしたいじわるをしてくる。
リリィは兄はもちろん、弟の事も嫌いではなかった。
それなのに、今は家族の誰一人しばらく会っていない。
リリィはつい先日、6歳の誕生日を迎えた。
本来なら盛大な誕生日パーティーを開かれるはずだが、病床の為にそんなものは無縁だ。
ただ、ベッドの回りには大きな熊のぬいぐるみやオモチャやドレスが入ったプレゼントがところせましと置かれている。
仕方ない事とはいえ家族は誰一人見舞いには来ない。
訂正すると、来ないのではなく来れないのだ。
母は二月前に同じ病で亡くなった。
どうやら感染する病気らしい。
父は国王だし、兄弟も王位継承者だ。
それは隔離されるのも無理はないかもしれない・・・・
執事のセバスは甲斐甲斐しく世話をしてくれるし、治療にも金に糸目は付けないようだ。
元気な頃の記憶ではよく父の膝の上に居たところを見ると、愛されているんだとは思う。
ただ、リリィの諦めにも似た悲しみを思うと一度くらい会いに来いよと怒りを私は覚えた。
ここまでリリィの記憶がまるで、他人事に思えるなぁと考えていたら映像は、リリィが赤ちゃんの頃から胎内の記憶へと遡ると、私の視界一面を光が覆った。
「おねえちゃん、死なないで‼」
泣きながら、血だらけの私に話かける、名も知らぬ少女の声と、遠くでサイレンの音が聞こえる。
ああ、私はこの子をとっさに庇って車に跳ねられてたんだ。
泣きじゃくる女の子を見ると、年の離れた妹に似ているなぁと、思いながら目を閉じた。
途切れそうになる意識の中、就職して研究三昧な日々を送りたかったなぁと思っていた。
前世の記憶を思い出しました。