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異世界に昇る日章旗  作者: DD122はつゆき
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8

 いつものように、女と酒を調達しようとした矢先に、そいつは現れた。

 濃い茶色と緑の斑模様の奇妙な魔法馬車だ。

 その天井から上半身を出しているのは、馬車と同じ色合いの斑色の鎧を身に纏った男だった。

 驚くことに、耳が無毛だった。形も奇妙な半円系の奇形だ。

 その奇形の男は、妙な道具を口に当てながら、こちらに向かって呼びかけてきたのだが、その内容というのが、武器を捨ててこちらの指示に従えなどという、失笑するようなふざけた内容だった。

 くだらないおしゃべりを中断させるために、棍棒を地面に叩きつけて脅しつけてやった。

 奇形のくせに、魔法を使って反撃してきたときは、少し驚いたが、魔操冑機の装甲を貫くほどではなかった。


「けっ! 見掛け倒しかよ!」


 その程度で、よくも武器を捨てて言う事を聞けなどと言えたものだ。

 魔法攻撃が効かないとみるや、奇形の乗る魔法馬車は尻尾を巻いて逃げ出した。

 嘲笑いつつも、こちらに攻撃してきた以上、見せしめのためにも放置するわけには行かない。

 ちょこまかと小賢しく逃げ回りながらも、散発的にこちらに魔法攻撃をしかけてくるのが苛立たしい。

 魔法馬車を追いまわしているうちに、村の反対側に出てしまったことに気が付いた。

構わず逃げる魔法馬車を追いたてるが、やがて奇妙なことに気付く。


「なんだ、こりゃ」


 思わず立ち止まり、そう零してしまった。

 目の前には、農村地によくある一面の畑が広がっていた。それは、別に珍しいことではない。

 しかし、自分の居る場所から一直線に、石畳とは違う、隙間の無い黒い道が伸びていた。

 疾走する魔法馬車の更に前方には、見たことも無い建造物があった。

 それに気をとられていると、道の両端で何かが光るのが見えた。

 それが何かを理解する間も無く、今までに経験したことの無い激しい衝撃と共に、機体が地面に崩れ落ちる。

 慌てて地面に手をついて、擱座する機体を支えようとするが、直ぐに腕も砕かれてしまう。

 意識を失う直前、男が最後に魔道映像越しに目にしたのは、迫ってくる黒い地面だった。




「次の角を右だ!」

「ういっす!」


 人間の動きと遜色の無い挙動で追い迫る魔操冑機を見据え、長良は叱咤した。

 村人や建物への被害を最小限に抑えるため、誘引に手間取り、かなりの遠回りをしてしまっていた。


「よしっ、あとはここを真っ直ぐっす!」

「ぐえっ!」


 キックダウンによる急加速に、長良はルーフに胸を打ち付けてしまった。


「げほっ……」


 咳き込みながら、長良は背後を振り返る。

 ここから先は、アスファルトで舗装された、外地駐屯地まで続く舗装された道路だ。

 元々は両脇に広がる田畑を貫く畦道だったものを、施設科が舗装したものだ。

 元が畦道だったため、周囲の田畑よりも乗用車1台分ぐらい高い位置に作られている。

 ロメオ1、ロメオ2の2両の87式偵察警戒車(87RV)は、それぞれ道路の両脇に陣取り、待ち構えていた。

 道路より一段低い場所に陣取ったのは、低い位置から上方へ向けて射撃を行うことで、流れ弾が地面に向かって飛ぶのを避けるためだ。

 主武装である25mm機関砲の仰角を、45度も取ることができる本車両にとってはうってつけだった。


「B地点通過! ロメオ1、ロメオ2、射撃用意!」

「ロメオ1了解。先頭の機体を第一目標、後続を第二目標とする」


 長良からの指示に、ロメオ1車長は、乗員に告げた。


「距離50。弾種徹甲。第一目標、指命。打方始め!」


 重低音と共に、25mm機関砲KBA-B02が曳光弾交じりの弾丸を吐き出した。

 少し遅れて、道路を挟んで反対側に陣取るロメオ2からも弾光が吐き出される。

 道の両脇から十字砲火を受けた先頭の魔操冑機は、驚いたように棒立ちになった。

 その下半身に容赦なく弾痕が穿たれ、やがて右の膝の部分が圧し折れた。

 両腕を地面について支えようとするが、今度は人間で言う肘関節の部分をあっけなく砕かれ、うつ伏せに倒れこんだ。


「打方止め。目標変更。第二目標。撃て」


 即座に対象の変更を行ったロメオ1の車長は、続く2機目の魔操冑機への射撃を開始した。すぐにロメオ2も追従する。

 殆ど不意打ち同然で為す術もなかった1機目と異なり、2機目はそれなりに冷静だった。

 姿勢を低くし、肩の盾のような部分で銃撃を受けながら、棍棒を手に、じりじりと接近しようとした。

 盾の部分は幾分か頑丈だったようで、ある程度の銃撃に耐えることは出来ていたが、それも僅かな時間に過ぎなかった。

 構えた盾に幾つもの弾痕が穿たれ、持ち手ごと破壊された後は、1機目と同じ運命を辿ることになった。

 守るものの無くなった脚部の駆動部分を全損し、地面に伏せることになった。

 僅か数分の間に、2機の僚機を破壊された3機目の魔操冑機は、踵を返して村のほうに向かていった。

 

「最後の1機が引き返した! 追え、橘!」

「ういっす!」


 長良の命令に、橘はすぐさま軽装甲機動車を反転させた。

 長良は一度車内に戻ると、持ち込んでいた|110mm個人携帯対戦車弾《パンツァーファウストⅢ》を取り出した。

 01式軽対戦車誘導弾(軽MAT)ではなくこちらを選択した理由は、赤外線画像誘導方式である軽MATでは、魔操冑機の発する赤外線を正しく感知できるか不安があったからだ。


(この位置から撃つのはまずいか……?)


 相手は完全にこちらに背を向けており、距離や位置を考えても命中させる自信はあった。

 しかし、村のある方角に向けて、対戦車兵器のような重火器を撃つということに、迷いが生じたのだ。

加えて、対戦車榴弾でもある110mm個人携帯対戦車弾の直撃を受ければ、操縦士もただでは済まない。

 だが、躊躇してあれが村の中で暴れでもしたら、間違いなく大惨事を引き起こす。

 即座に決断した長良は、素早く発射態勢を整えると、サイトを覗き込み引金を引いた。

 強烈なバックブラストと共に打ち出された成型炸薬弾は、直後に安定翼が展開しロケットモーターに点火、目標に向けて一直線に飛翔し、背後から胴体中央部に命中した。

 もんどりをうつようにして、3機目の魔操冑機は地に伏した。

 四肢は無傷だが、起き上がってくる気配は無い。


「ふう……」


 軽く息をついた後、長良は普通科部隊に指示を出した。


「一斑は第一、二班は第二、三・四班は第三目標の操縦士を拘束しろ」


 長良達の軽装甲機動車の横を、普通科隊員を乗せた96式装輪装甲車や高機動車が通過していく。

 下車した隊員達は、擱座した魔操冑機を取り囲んだ。


「三・四班。第三目標は、まだ駆動系が生きていると思われる。念のため、関節部を破壊しろ。関節部なら、89式の5.56mmでも損傷を与えられる」


 もっとも、操縦士が生きているとは思えないから、その心配は無いだろうがと、長良は心の中で付け加えた。

 3機目を取り囲む普通科隊員は、長良の指示通り、腕部や脚部の関節部分に5.56mm弾を叩き込んだ。


「長良二尉」


 その光景を眺めていると、村のほうから、作り物の獣耳と尻尾を付けた男がやって来るのが見えた。

 あらかじめ、村人に変装して、群集に紛れ込ませていた普通科隊員の一人だった。

 長良達が魔操冑機を村の外に引きずり出すまでの間、彼らが村人の誘導を行っていたのだ。


「民間人に負傷者が出ましたが、何れも軽傷です。重傷者や死者はいません」

「……そ、そうか。ご苦労」


 良い歳をした男が、任務とはいえ、作り物の獣耳と尻尾を付けて真面目腐った表情をしている様子に、

 少し笑いが込み上げてきそうになったが、表情筋を総動員して抑え込んだ。

 耳と尻尾は、需品科の隊員が作成したものだが、無駄に良く出来ていた。


「村に残った騎士……というか、ゴロツキ共も、ロボットが倒された時点で抵抗をやめました」


 自棄を起して、村人に狼藉を働こうとした者も居たらしいが、彼と同じように変装していた普通科隊員によって制圧されていた。

 何人かは逃がしてしまったが、連中が乗りつけて来た馬車は、全て接収することが出来た。


「それで、馬車の中身なんですが……」


 若干言葉を濁したあと告げられた内容に、長良は無言で鉄帽の庇を下ろした。


「……橘。司令部に、医務官と……WACを何人か寄越すように伝えろ」

「……了解っす」

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