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異世界に昇る日章旗  作者: DD122はつゆき
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 日本に出現した門を皮切りに、世界中に出現し始めた異世界への門。

 しかし、門の向こうの世界が日本に出現した世界と同一のものなのかどうかは一切不明だった。

 日本と同盟関係にある国に現れた門の先には、中世の欧州を思わせる絶対王政の中央集権国家があった。

 どうやら、門の向こうに彼らの信仰する自由と平等を輸出しようとしているらしいが、難航しているようだ。

 日本の隣にある分断国家の非武装地帯に現れた門の先には、白亜紀を思わせる恐竜パラダイスが広がっていた。

 首都になだれ込んできた恐竜の群れにパニックになり、大統領が真っ先に逃亡したらしい。

 面積だけは広いもう一つの隣国に現れた門の先にあったものは、当局の情報統制で詳細は不明。

 門の出現と同時に、日本を含めた近隣諸国への嫌がらせがピタリと止んだ事から、芳しくないことだけは推測できた。

 そんな諸外国の現状と比べると、今のところ穏便に済んでいる日本は、かなりマシなほうだといえる。


「これが、新しく見つかった門ですか」

「そうだ」


 長良が外地駐屯地司令である加古陸将補から見せられたのは、上空から海面を撮影したと思われる数枚の写真だった。

 おそらく、海自の哨戒機によるものなのだろう。海面にはっきりと門の存在が見て取れた。

 橘が話していた海に現れた新しい門とはこれのことだ。


「場所は硫黄島の北東約10海里の地点。日本の領海内だ。既に、固着化も完了しているように見える」


 これまでの傾向から、門の出現パターンは、大きく分けて二つあることが判明していた。

 一つは、特定の場所ごと異世界側に転移し、こちらの世界に戻ってきた後、門が開かれるタイプ。

 もう一つは、陽炎のような空間の揺らぎと共に門が現れ、それが次第に収まっていき、空間に穴が形成され、

 行き来が出来るようになるタイプだ。

 揺らぎが収まり、行き来が出来る状態になることを、便宜上「門の固着化」と呼ばれている。

 門が出現するパターンは後者が殆どで、前者に関しては、今のところ西富士駐屯地以外に事例は確認されていない。


「水上に現れている部分は、横幅約50メートル、高さは約40メートル程度あるとのことだ」


 西富士駐屯地に出現している門と比べて、かなりの大きさがある。

 高度を落とせば、航空機の通過も可能だろう。


「水深はどの程度なんです?」


 水面下にどの程度広がっているかで、通過できる船舶も限られてくる。

 護衛艦が通過できないとなると、少し厄介かもしれない。


「いまのところは不明だ。詳しくは、調査報告待ちだ」


 新たな門の出現を受け、政府は速やかに国民と全世界に情報開示を行うと共に、硫黄島近海に調査部隊の派遣を決定した。

 横須賀の海洋業務・対潜支援群所属の海洋観測艦と音響測定艦が、各一隻ずつ派遣されることになった。

 更に不測の事態に備え、第一護衛隊群の護衛艦4隻が護衛につき、航空自衛隊百里基地所属の301・302飛行隊より、

 F-4EJ改8機が硫黄島基地に前進配置されることになっていた。


「門の扱いをどうするかは政府の判断になるが、放置しておくわけにはいかないからな」


 加古の言葉にそうですね、と応じながら、長良は手にしていた写真を机の上に戻した。


「で、さっそくとばかりに、某国が頻繁に電子偵察機を飛ばして、領海ギリギリで偵察行動に勤しんでるそうだ」


 長良の脳裏に赤い星が浮かんだ。

 向こうの言葉では、クラースナヤ・ズヴェズダーと発音するのだったか。

 彼の国には、複数の門が出現していたはずだが、それでも日本にちょっかいを出す余力があるらしい。

 最近はめっきり大人しくなってしまった隣国とは違い、元気なことだ。

 もしかして、門の向こうとの交流が上手く行っているのだろうか。


「まあ、それは置いておくとして、本題はこっちだ」


 加古は、更に別の写真を数枚取り出した。

 長良はその一枚を手に取り、判断に困ったように眉根を寄せた。


「これは……ヘリからの画像ですか」

「そうだ」


 外地では、OH-6D観測ヘリや無人偵察機システム(FFRS)を使用しての周辺偵察が間断なく行われているが、加古に見せられたのはそれらが撮影した写真だった。

 そこに映っていたのは甲冑だった。

 その手の武器や防具についての知識があまりない長良の目には、鎌倉時代の御家人が身につけているようなものに映った。

 始めは人が身につけているものかと思ったが、周りの風景との対比が明らかにおかしい。

 馬車と一緒に映っている写真もあったが、引いている馬や荷車よりもはるかに身長があった。

 目算で5,6メートル程度はあるだろうか。

 背中には棍棒のような得物を背負っている。


「ロボット……?」


もしくは、魔法の力で動くゴーレム的な何かだろうか。

 橘だったら大喜びするだろうなと長良は思いつつ、他の写真にも目を通していった。


「問題は、これが村に向かって来ているということだ」


 全ての写真に目を通してみたところ、そのロボットと思しき巨大甲冑は、全部で3体。

 他には、馬車が5台と、その周囲に武装した人間の姿が確認できる。

 いくつかの写真の中には、上から叩き潰されたように死んでいる丸蟲の姿、破壊された馬車の残骸や、明らかに人の死体と思われるものが映っているものもあった。

 泣き叫ぶ若い女性が、下品な笑みを浮かべる男達に引き摺られている写真もあり、長良は顔を顰めた。

 ロボットと思しき人型の巨大甲冑は、胸の辺りに操縦席らしきものがあり、そこに男が乗り込もうとしている写真もあった。

 乗り込もうとしているのは、髭面で横幅のある中年の男だ。

 身形は皮製と思われる粗末な鎧を着込んでおり、腰の辺りには抜身の山刀をぶら下げていた。

そんなむさ苦しいなりをしていても、人種的には村の人々と同じようで、しっかりと獣耳と尻尾があった。


「このロボットらしきものが何者かは知れんが、遭遇した場合、ほぼ間違いなく戦闘になるだろう」


 加古は確信を持って言った。長良は頷く。

 写真を見る限り、話し合いで穏便に済みそうには思えなかった。


 つまり、こいつに対処しろということらしい。

 長良は観念して軽く溜息を吐いた。


「村の長老連中なら何か知っているかもしれませんね。確認してみます」

「そうしてくれ」


 戦闘になった場合の対処手順や動かせる部隊を確認した後、長良は司令官室を後にした。


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