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異世界に昇る日章旗  作者: DD122はつゆき
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『同盟国、異世界の統治に失敗か。現地民衆の不満が爆発』


 長良が手にしている新聞の一面に、そんなテロップが踊っていた。


「ああ、二尉もその記事読んだんすね。あちらさん、苦労してるみたいっすね」

「そのようだな」


 長良は馬鹿にしたような半笑いで応じた。

 日本の同盟国に現れた門の先にあったのは、絶対君主制の王族が民衆を弾圧しているという国家だった。

 ヒーローになるのが大好きな彼ら好みのシチュエーションに、大統領は人道的見地から大々的に異世界の解放を喧伝し、反体制勢力に肩入れして王族を打倒、新政府の樹立まで成功に導いていた。

 だが、そこからが不味かった。

 独裁者=悪という短絡的な思考しかできなかった同盟国は、国王を処刑し王制を廃止してしまったのだ。

 それから状況は一変した。

 王統派の残党のみならず、それまで支援してきたはずの反体制勢力までもが、同盟国に牙を向いたのだ。

 同盟国は大いに混乱した。

 独裁者を打倒し、圧政に苦しんでいる民衆を解放し、法と正義を施行したはずなのに、だ。

 異世界国家を教化し、経済的植民地化を目論んでいた同盟国の思惑は、完全に破綻してしまったわけだ。

 始めの頃は、デモ活動程度だった反対運動の規模が次第に大きくなり、武力衝突に発展するまでに、それほど時間はかからなかった。

 同盟国は、彼ら自身が供与した武器で、彼ら自身が訓練した現地人によって攻撃されることになってしまったのだ。

 しかも、本来敵対していたはずの反体制派と王統派が結託して同盟国に反抗し始めたのだ。

 同盟国の混乱はますます大きくなり、収拾がつかない状態にまでなっているようだった。

 少数ではあるが、同盟国の将兵にも死傷者が出たことで、同盟国内では、徐々に反戦運動が活発になっていった。


「しかし、学ばん連中だ。ベトナム、アフガン、イラク、そして異世界。何度同じ事を繰り返せば気が済むんだ」


 同盟国の統治が破綻した正確な理由は分からないが、長良は国王を処刑し、君主制を廃したことが原因ではないかと考えていた。

 国王は確かに暴君だったのかもしれない。だが、だからといって、すべての人々が君主制に批判的だったかどうかは分からない。敵同士であったはずの、反体制派と王統派が結託していることがその理由だ。

 いずれにせよ、同盟国が期待していたような単純な話ではなかったということだ。

 むしろ、そんな分かりやすい図式は、道徳の教科書かハリウッド映画ぐらいしかありえない。


「大東亜戦争後の日本統治が思いのほか上手く行ったっすからね。その時の感触が忘れられないんすよ、きっと」

「上手くいったのは、天皇の存在があったからだ。天皇の一声で、殆どの国民が敗戦を受け入れ、一斉に戦うことを止めたからだ」


 一部の軍人はそれに従わず、部下を道連れに無謀な特攻を行った者もいたが、将兵と国民の大多数がそれに従ったことに、当時の連合軍司令官マッカーサーは驚愕した。

 さらに、面会した昭和天皇が保身の事など一切口にせず、国民を飢えないようにして欲しいと懇願したことにも。

 もしも皇室を廃し、天皇を戦犯として処刑すれば、一億の日本国民が一斉に敵に回ることを悟ったからだ。


「まー、当時のGHQほど賢くは無かったって事っすね。日本にそうしたように、うまく牙を抜いて手下にするとか、考えられなかったんでしょうね」

「そのようだな」


 記事の結びは、日本も何れ同盟国のようになるのだから、異世界から手を引くべきだなんだという記者の願望が入り混じった言葉で締められていた。

 長良は新聞を丁寧に折りたたむと、近くにあったゴミ箱に放り投げた。


「まあ、他所の事はいい。問題は俺達のほうだ」


 前回と異なり、時間的余裕もあるため、外務省から外交官が派遣されることにもなっている。

 このことからも、日本政府は今回の接触を正式な外交と位置づけていることになる。

 また、研究と情報公開のため、門を通して日本側に持ち出されていた三機の鹵獲魔操冑機は、正規の持ち主に返却するため、再びこちら側に戻されていた。


「正当防衛とはいえ、ぶっ壊しちゃったわけですし、謝罪ガー! 賠償ガー! とか言われたら面倒っすね」

「そこをどうにかするのが、外交官様の腕の見せ所だろ。俺達は俺達の仕事をするだけだ」


 社交省と揶揄される外務省の役人では、荷が重いだろうが、長良には関係の無いことだった。


「ういっす。準備は万端っす。問題があるとすれば、老害共が余計なことをしないかってとこっすね」


 正規の騎士団と恙無く対話が出来たと仮定して、常日頃から自衛隊の活動に批判的だった長老達が、騎士団の構成員にあること無いこと吹き込むという懸念だ。だが、だからといって、まさか拘束するわけにも行かない。


「幸い、その長老達の奥方達は、俺達に好意的だからな」

「二尉はマダムの方々に大人気っすからね!」


 長良は渋い表情でニヤニヤ笑う橘を睨みつけた。

 ひょんなことから長良は独身であることが知れ渡っていた為、会いに行くたびに、奥様方から自分の孫娘や近所の若い女性とのお見合いを勧められて辟易していたからだ。

とはいえ、有力者の配偶者に受けがよいというのは、大きなアドバンテージだ。交渉や根回しがスムーズに運んでいる理由の一つにもなっていた。


「……念のため、話を通しておくか。橘、運転しろ」

「ういっす」

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