表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に昇る日章旗  作者: DD122はつゆき
19/26

18

「いま、ここ。二人のおうち、どこ?」


 六人掛けのテーブルの上に、即席で作成された沿岸部の地図を広げている。

 仁淀が司令部に掛け合って借りてきたものだ。

 なにぶん、急ごしらえのものなので、細部は正確ではないものの、大体の位置を確認する程度であれば支障は無いはずだ。

 仁淀は笑顔を浮かべながら、出来るだけ簡単な単語を並べるようにして、二人に尋ねた。

 姉妹は、目の前に広げられたそれをぽかんとした表情で見つめ、顔を見合わせて困惑していた。


「もしかして、地図の見方が分からないんじゃないか。もしくは、地図自体があまり一般的ではないのか」

「あるいは、極狭い地域の地図しか見たことが無いのかもしれませんね」

「うーん……困りましたね。あ」


 仁淀は閃いたとばかりに、ポンと手を叩いた。


「それなら、ヘリから撮影した空撮映像を見せてみてはどうでしょう」

「なるほど。それは良いな」


 那珂は賛同した。

 大陸を発見したSH-60Kからの映像には、村らしきものが映っていた。

姉妹に自分の目で確認してもらえば、それが自分の村なのかどうかすぐに分かるだろう。


「司令部に掛け合って、プロジェクターを借りてきますね。手伝ってください、那珂二尉」


 仁淀は腰を浮かせながら、那珂に向かって微笑んだ。


「何で俺が?」

「たまたま、目に付いたからです。それとも、私一人に運ばせるつもりですか」

「あー、はいはい。面倒くせえなぁ」


 仁淀と那珂が席を立った。


「破傷風って、本当なんですか?」


 二人の後姿を見送りつつ、那珂が医務官に問いかけた。


「症状だけを聞くとね。診ないことには断言できないけど」


 医務官は、地図を見ながら、あれこれ話し合っている姉妹を横目に答えた。


「破傷風に良く似た未知の病気っていう可能性も、十分考えられるわ」

「……空気感染とかしたら嫌ですね」

「無いとは言えないのが、怖いところね」


 そんなあまり愉快ではない会話を続けていると、那珂と仁淀がプロジェクターを運んできた。

 那珂は食堂の壁をスクリーンに見立てるようにプロジェクターを設置する。


「こんなもんでいいか」

「それでは、再生しますね」


 仁淀は、プロジェクターに接続したノートPC端末で、動画の再生を始めた。

 動画の映像は、SH-60Kの機外カメラからのものだった。

 発艦時から録画を始めていたらしく、誘導員の指示に従い離艦するところから映像が始まっていた。

 空撮映像など初めて見る姉妹は、目と口を大きく見開き、「ふあー」とか「ほえー」とかいった若干間の抜けた声を上げていた。

 SH-60Kは、『ひゅうが』を離れ、少しの間、何も無い海面の姿が映し出される。


「このへんは、早送りしていいんじゃないか?」

「そうですね」


 海面しか表示されない場面を早送りしていくと、画面の奥から徐々に陸地の影が見え始めた。

 その辺りで、仁淀は早送りを止め、通常再生に戻す。

陸地が徐々に近づいてくると、地形の輪郭ががはっきりと見え始めてきた。

 その殆どが、接岸できそうも無い断崖絶壁だったが、僅かに口を開けるようにして、砂浜が開けている箇所があった。


「あ!」

「あー!!」


 姉妹が揃って、画面を指差し声を上げた。

砂浜には、姉妹が乗っていたような小舟や漁具が並んでおり、その先には何戸かの粗末な家々が立ち並んでいる。

 姉妹は興奮したように、仁淀や那珂の袖を引っ張っては、早口に捲し立てた。

 その殆どがこの世界の言葉だったので、二人には理解できなかったが、その中に「むら」やら「いえ」といった日本語が混じっていた。


「ここが、二人の住んでいる村みたいだな」

「そのようですね。これで、方針は決まりました」


 四人は早速、上層部への意見をまとめて、上申することにした。

 動画や地図から地形を確認する限りでは、ヘリなどが着陸できるほどの空き地は確認できない。

 LCACを使用し、姉妹と二人の乗っていた小舟、車両や医療チームなどを輸送することになりそうだ。


「LCACを使うんですか。あの海蛇の怪物に襲われませんかね?」


 球磨が懸念の声を上げた。


「その可能性は十分にありますが、ほかに方法は無さそうです」

「となると、ヘリで護衛することになるな……」


 今回『ひゅうが』に配備されている純粋な攻撃ヘリは、那珂と球磨が搭乗する機体を含めて二機だ。

 作戦が認可されれば、当然彼らが護衛を担当することになるだろう。

 SH-60KやUH-60Jにもドアガンは装備されているが、武装としては心許ない。


「とにかく、さっさと纏めてしまいましょう。のんびりしている時間は無いわ」


 医務官の言葉に他の三人が頷いた。

 結局、仁淀が司令部に提出した姉妹の移送方針は、他に有効な手立てが無いこともあり、ほぼそのままの形で認可されることになった。

 一夜明けて翌日。

 姉妹は仁淀や医務官と共に『ひゅうが』の甲板上にいた。

 駐機スポット上のUH-60Jが、強烈なローター音とダウンウォッシュを発しながら四人を出迎えた。

 その後方のスポットには、那珂と球磨のペアが乗るAH-1Sが同じくローター音を轟かせながら控えている。

 まずはヘリで『おおすみ』へ移動後、LCACで村の砂浜にビーチングする予定だ。

 姉妹には、付きっ切りで二人の世話をした仁淀と医務官を始めとした衛生チーム等が同行することになっている。


「ぶらほっく! こぶら!」


 ヘリのローター音に負けないぐらいの大声で嬉しそうに叫ぶナターシャに、仁淀は苦笑を浮かべた。

 余談ではあるが、ナターシャの口からUH-60Jの愛称ブラックホークがブラホックとして異世界の人々に伝わってしまい、那珂は異世界の少女に猥語を教えた自衛官として、不名誉な名を残すことになる。


「ナカー! クマー!」


 ナターシャは、AH-1Sに乗り込んでいるのが那珂と球磨であることに気付いた。

 彼らに向かって大きく手を振ると、機内の二人も軽く手を振り返してきた。

 ナタールも控えめながら、二人に向かって手を振っていた。


「さあ、いきましょう」


 仁淀に促され、姉妹はUH-60Jに乗り込む。

 四人が乗り込んだことを確認し、隊員はドアを閉めた。

 プリフライトチェックを完了後、甲板作業員の合図で、『ひゅうが』より発艦する。

 四人を乗せたUH-60Jは、『ひゅうが』から見て右舷(みぎげん)に停泊している輸送艦『おおすみ』に向けて飛び立った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ