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異世界に昇る日章旗  作者: DD122はつゆき
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 騎士団と称する連中の襲撃から一夜明け、長良を始めとした外地派遣隊は、後始末に忙殺されていた。

 村を襲撃した「騎士団」の総数は、魔操冑機の操縦士3名を含め30人前後と、数自体はあまり多くは無い。

 行く先々で略奪を繰り返していたようだが、魔操冑機の力に頼るところが多かったのだろう。

 自衛官や民間人を含め、死者はゼロ。負傷者は居たが、何れも軽傷だった。

 一方、村を襲撃してきた騎士団も、魔操冑機が早期に倒されたことによって早々と降伏したため、殆どが軽傷だった。

 唯一人、長良が|パンツァーファウストⅢ《LAM》で倒した魔操冑機の操縦士だけは、全身打撲の重症だったが、命に別状は無い。

 LAMの直撃を受けたにもかかわらず無事だったことについては、鹵獲した魔操冑機の調査結果待ちとなっている。

 長良は、連中に捕らわれていた女性達についての報告書に目を通し、その惨状に苦々しく顔を顰めた。

 命に別状は無いようだが、肉体的なものはもとより、精神的なショックのため、まともに会話できる状態ではない人が殆どらしい。

 生々しい話ではあるが、幸いにして、性病や妊娠の兆候は見られないとのことだった。


「あとは、あの女性の回復待ち、か」


 長良は嘆息し、椅子の背凭れに身体を預けた。

 タケヒロとの不毛なやり取りの中、自衛隊が戦った連中を、騎士団ではないと言った女性がいた。

 その直後、女性はすぐに意識を失ってしまったため、詳しい話は全く聞けていないが、現状を把握するための貴重な情報源であることは間違いなかった。

 不幸中の幸いといえるのは、懸念されていた村人達の自衛隊に対する心象の悪化がそれほど見られなかったことだ。

 自称騎士団の連中を捕縛して撤収する際、多くの村人が笑顔で大手を振って見送ってくれたことからも分った。

 特に、魔操冑機を倒した2両の87式偵察警戒車(87RV)の人気は凄まじく、一目見ようと押し寄せてきた村人達によって、撤収が困難になるほどだった。

 報復を懸念しているのは、例によってタケヒロら一部の老人だけだった。

彼らは頑なに、自衛隊が捕えた賊を騎士だと信じているようだった。

 もっとも、長良の見る限り、今更引き下がることが出来ず、意固地になっているだけのようにも見えたが。

 年寄りが拗ねたりムキになったりするのは、どこの世界でも同じのようだ。


「日本じゃ大騒ぎになるだろうな……」


 どこか他人事のように、長良は呟いた。

 今回の襲撃事件は、すぐさま門の向こうにある西富士駐屯地を経由して、即座に防衛省および内閣府に伝達されている。

 駐屯地司令の加古陸将補から聞いた話では、OH-6D観測ヘリや無人偵察システム(FFRS)から撮影していた一連の顛末を、ノーカットで政府広報や政権与党、各自衛隊の公式サイト、それから無料動画アップロードサイトなどに、全編ノーカットでアップロードするらしい。

 軍事評論家や自称有識者、某掲示板の賢者達の間で様々な憶測が飛び交うのは火を見るより明らかだった。

 それどころか、一部マスコミが事実を捏造して、大炎上を引き起こすところまで容易に予測できた。

 医務室より、件の女性の意識が戻ったとの連絡が入ったのは、長良がそんな考えに耽っていた時だった。




 長良の予測はほぼ的中した。

 公開された動画は、日本国内はもちろんのこと、瞬く間のうちに全世界に拡散していった。

 死者を一人も出さずに、得体の知れないロボット兵器を倒した自衛隊を素直に賞賛する声もあれば、あまりの現実感の無さに、政府によるやらせであることを声高に主張する声もあった。

 さらには、これまた長良の予想通り、従軍慰安婦問題の捏造で盛大なバッシングを受けた某反日極左新聞が、政府からの発表を『自衛隊、ついに外地人と武力衝突!! 死傷者発生か!?』などと捏造報道し、すぐさま嘘がばれて大炎上を引き起こしていたことも付け加えておく。

 政府のやらせを主張する者の殆どは、脊椎反射で口答えをしているだけの「いつもの連中」だ。

 「日本の異世界への侵略行為を正当化するための捏造だ!」というのが彼らの主張なのだが、何がどう侵略行為を正当化しているのかは、決して明言しない。というか、考えて喋っているわけではないので出来ない。

 具体的な説明を求められ反論に窮すると、「ネトウヨ」だとか「ヘイトスッペチ」だとか、意味不明なレッテル張りする習性も相変わらずだ。

 それとは別に、中には「LAMの直撃を受けてパイロットが生き残るぐらいの強度なのに、最初の2機があっさり機関砲の射撃だけで倒されたのがどう考えてもおかしい」という、比較的なまともな意見もあった。

 コックピット周りだけ頑丈に作られているのではという可能性もあったが、成型炸薬弾頭の直撃によって生じるジェット噴流を防ぐだけの装甲とはどんなものなのかという疑問は確かに残る。

 しかし、既に政府が異世界側と交渉を持とうとしているこの状況で、政府主導で自衛隊や現地住民を巻き込んで、こんな捏造映像を作り上げる意味は全く無い。

 捏造だろうがそうでなかろうが、そんな動画を公開すれば、大騒ぎになるのは分かりきっているからだ。

 それを敢えて公開に踏み切ったのだから、やらせや捏造という可能性は低いのではないかというのが、大多数の日本人の見方だった。

 動画の公表と同時に行われた官房長官の記者会見で、マスコミの質問攻めを淡々とあしらう官房長官の清々しいばかりの鉄面皮ぶりも効果が高かった。

 動画で公開した以上の情報については、現時点では調査中としているが、近々、鹵獲したロボットのようなものを公開する予定であるとしていた。


「すげえな、あのロボット。動きがまるで人間みたいだ」

「ですね。アシモなんか目じゃないな。どういう原理で動いてんでしょうね、あれ」

「魔法的な何かじゃねえの?」

「魔法ですか。なるほど、さすが異世界ですね」


 ヘリコプター護衛艦『ひゅうが』の艦内食堂で、二等陸尉と三等陸尉の階級章を付けた陸上自衛官の二人が、そんな会話を交わしていた。

 ウイングマークを付けていることから、ヘリの搭乗員であることが分かる。

 二人は、木更津駐屯地の第4対戦車ヘリコプター隊より『ひゅうが』に派遣されているAH-1S対戦車ヘリコプターの乗員だ。


「俺らもああいうのとやりあうことになるのかねえ」


 そう呟いたのは、二等陸尉の階級章を付けた操縦士で機長でもある那珂だ。


「俺は勘弁して欲しいですけどね」


 武器担当官兼副操縦士の球磨三等陸尉が応じた。

 食堂内に設置されているテレビでは、西富士駐屯地に出現した『門』の向こうで起きた戦闘についての公開動画が放映されていた。

 動画が公開されて3日が経過するが、どの放送局も特番を組んで連日の如く、自衛隊初の武力行使に夢中になっていた。

 この動画が公開されたのは、硫黄島東方沖に発見された『門』への調査派遣が決定し、『ひゅうが』を旗艦とする7隻の調査派遣艦隊が編成された直後の事だった。

 派遣に先立つ『門』付近の海域調査により、『門』の向こうには、陸地が存在することも判明していた。

 そのため、派遣艦隊には、陸地調査隊と護衛の陸上自衛隊部隊を満載した輸送艦『おおすみ』が加わっていた。

さらに、海域調査を行うため、海洋観測艦『しょうなん』と音響観測艦『ひびき』も帯同する。

 『ひゅうが』には、従来の哨戒ヘリSH-60Kや掃海輸送ヘリMCH-101のほかに、艦隊と陸地調査隊の護衛のため、陸上自衛隊から派遣されたOH-1とAH-1Sが複数機搭載されていた。

『ひゅうが』『しょうなん』『ひびき』については、『門』の調査を行っていた艦が、そのまま派遣艦隊にスライドする形となる。

 それらの艦艇をを護衛するのは、定型港である横須賀基地所属のミサイル護衛艦、『きりしま』と汎用護衛艦『いかづち』それに加え、ヘリコプター搭載護衛艦『かが』の就役で退役が決定していたヘリコプター搭載護衛艦『くらま』が、急遽現役復帰し、『ひゅうが』の補完として運用されることとなった。

 なお、旗艦として選定されたのが、よりヘリ搭載力の高い『いずも』型ではなく、『ひゅうが』型なのは、個艦防衛能力の差だ。

 近接防空ミサイル(RAM)以外に自衛手段の無い『いずも』型と違い、『ひゅうが』であれば、砲熕兵装こそ備えていないものの、|発展型シースパローミサイル《ESSM》や|垂直発射型対潜ミサイル《VLA》なども備えているため、自衛はもちろん、十分な戦闘能力を備えているからだ。

 派遣艦隊の護衛が実質3隻だけでは少ないのではないかという意見もあったが、海上自衛隊の厳しい台所事情では、それ以上の護衛艦を増やすのは難しかった。


『間もなく『門』に進入する。総員注意せよ』


 その艦内放送に、那珂と球磨は顔を見合わせて苦笑した。


「注意しろ、って言われもな」

「ですね」


 二人を乗せた『ひゅうが』を含む7隻の艦隊は、単縦陣を取り、洋上にぽっかりと穴を開けている『門』へと近づいていった。

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