2.家族の楽しい朝食
扉の前で深呼吸をして気持ちを整えると、一拍おいてエマが扉を開けてくれる。やはり家族はもう揃っていた。
「おはようございます。父様。クラウス兄様。ルカ。お待たせしてしまって申し訳ありません」
申し訳なく思い、謝罪の一礼をする。
「おはよう。エル」
「おはよう、エル。全然待ってないから大丈夫だよ!」
「エルねぇさま! おはようございます!」
皆が笑顔で迎えてくれたので、ほっとして自分の席に着くと、すぐに朝食が運ばれてきた。
「エルねぇさま! きょうはおてんきがいいので、おひるは、なかにわでしませんか?」
弟のルカが、ほっぺたに苺のジャムをつけながら、にこーっと嬉しそうに言った。
私の弟は今日も、とっても可愛い。自然に笑みが溢れてしまう。
兄様と私は、父様譲りのストレートの銀髪をしているが、ルカは母様譲りの金髪の癖毛。透き通った白い肌に、金髪のくるくるした髪、愛らしい瞳は水色で天使のよう。
「ルカは朝ご飯を食べている時でも、もう昼ご飯のことを考えているのかい? 食いしん坊さんだね」
兄様は、可愛くて仕方ないといった笑みと共に、ジェスチャーで頬を指差してルカに教えてあげる。
ルカは少し恥ずかしそうに、はにかみながらジャムをナプキンで拭った。
「えぇ。そうしましょう。ルカ、ピクニックみたいにお弁当を作って中庭で食べましょうね」
「エル。僕のことは誘ってはくれないのかい?」
「クラウス兄様は、今日はご友人のお宅に行かれるご予定では?」
「そうだった! なんでこんな日に予定をいれてしまったんだ僕は……。」
両手で顔を覆い、悲しみに打ちひしがれている様子の兄様。
兄様は、それはもうこの人、大丈夫か? という程に私とルカを溺愛して下さっている。
なので、たかだか中庭でのピクニックの話なのに一大事になってしまう。
家族にとっては、いつものやり取りだ。
まぁ、私もルカにはデレデレなので、何も言えませんが。
「今日の予定はキャンセルを……。」
兄様がそう呟いた時、視線を感じたのか父様をチラッと横目で確認する。
「不義理は許さんぞ、クラウス。」
静かに朝食を取り続けている父様の、落ち着いたよく通る低い声が、食堂に響いた。
兄様は、肩をがっくりと落として何かブツブツと呟いている。
あぁ、僕の天使達との楽園での素敵ランチが……。天に見放されたのか? とか何とか言っているのは……聞こえないふりをいたしましょう。
「クラウス兄様。また機会はございますわ。今度ご一緒して下さいませ」
「本当に?! 絶対、ぜーったいだからね?!」
「え、えぇ。お約束ですわ」
「僕の女神!」
勢い良く席を立つと、座ったままの私の元に来て、力任せに抱きしめる。
兄様……。鼻息が荒い……。折角の美形が台無しです。涙目で鼻水も少したれていますし……。しかも、くっ、苦しい…。
もぞもぞと腕の中から抜け出そうと試むが上手くいかない。兄様の肩越しにルカを見ると若干引いている気がした。
うん。弟よ。その怯えた表情も可愛いね。
「行儀が悪い。クラウス」
父様の言葉で、私は解放されて空気を吸い込めるようになる。
「クラウスにぃさま、ぼくもたのしみにしていますね」
ルカがエンジェルスマイルでそう言うと、はうっ! と声をあげた兄様はそのままルカを抱きしめ、頭をなでなでする。
「天使が! 天使がここに!」
頬ずりまでしそうな勢いだ。
「クラウス……。」
呆れ顔の父様の語尾には、いい加減にしろよ? という副音声が聞こえました。
いつもの朝のひと時が、私の心を温めてくれる。
心にあった嫌な感情が溶けていく気がした。
ふと、後ろに控えているエマを見ると、安心したような微笑みで私を見ていた。




