掛け軸のお願い-八-(終)
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——翌日。
真司は放課後になると、あかしや橋へと走りながら向かっていた。
真司は腕に着けている赤い数珠のブレスレットを見る。ブレスレットの中央には銀の鈴があり、鈴には菖蒲の花が彫られていた。
真司は、これを渡されたときの事を思い出す。
「真司。お前さんには、これをやろう」
別れる前に菖蒲は着物の袖口から数珠のブレスレットを真司に手渡した。
赤い数珠が太陽の光を受け、まるで夕陽のようにキラリと光る。菖蒲は、真司にブレスレットの説明を真司にした。
《これには私の妖力が込められておるのじゃ。これがあれば、子の正刻まで待たなくても、自然と商店街へと道は繋がる。そして、これがあればお前さんに悪さをする妖怪も下級なモノも寄っては来ぬじゃろう。肌身離さず着けるんじゃぞ》
菖蒲は真司に背を向ける。
《明日、学校が終わったら店にきんしゃい》
菖蒲がそう言った瞬間、突然辺りに強い風が吹き付けた。
真司は風の強さに目を閉じる。そして、目を開いた後には、目の前にいた菖蒲の姿は忽然と消えていたのだった。
「はぁ……はぁ……」
堺市は山の表面を荒削りし、コンクリートを埋めただけの道なので、一見平坦に見える道でも実は上り坂になっているという道が沢山ある。だから東京で暮らし山に慣れていない真司には、坂の上がり下りが少々しんどかった。
それに加え、走りながら向かっているので息が切れ、肩が上下に上がっていた。
真司は立ち止まり、学ランの第1ボタンを外し深呼吸をしながら息を整える。目の前には『あかしや橋』と書かれている橋が建っていた。
(あやかし商店街……)
菖蒲がくれたブレスレットに一瞬だけ目をやる真司は、再び前を向く。そして、あかしや橋へと一歩大きく歩んだのだった。
(終)
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[あらすじ]
掛け軸のお願いから、あやかし商店街へ二度目の訪問をする真司。
二度目の訪問では初めて妖しと接触したり、菖蒲の店に住むお雪に質問攻めされたり?
新キャラ登場!第一幕~掛け軸のお願い~その後のお話。