大晦日の大行事–十–
飴屋を後にした真司達は、ぶらぶらと出店を回りながら歩いていた。
すると、真司は、ふと小物屋に目が行った。
(あ……これ……)
真司は小物屋に売られている物に触れる。それは硝子のように透明な大輪の花の簪だった。
花の先だけはほんのりと淡い蒼色をしている。真司は、その簪をしげしげと見ていた。
(なんだか、菖蒲さんに似合いそうだな……)
その言葉が口に出ていたのだろうか?横から白雪がヒョコッと顔を出し微笑んだ。
「その簪、菖蒲様に似合いそうですね」
真司は口に出していたのかと思い、慌てて自分の口を手で塞ぐ。
「ぼ、僕、もしかして口に出していましたか!?」
「え? ……あぁ。うふふふ」
言っていることが最初わからなかった白雪は、真司の言っている意味がわかるとクスクスと笑い始めた。
「ふふっ、大丈夫ですよ真司さん。口には出ていません。それより、その簪の花は月下美人ですね」
「月下美人ですか?」
真司の問いかけに白雪が小さく頷く。
「はい。月下美人とは、年に数回、それも、一夜限り咲く花のことです。 日本では六~十一月に咲きますね。元は、外国の花らしいですよ」
「へぇ~」
(菖蒲さんと一緒で、白雪さんも物知りだなぁ~)
白雪は微笑みながら月下美人の簪を見ている真司にそっと耳打ちをする。
「菖蒲様に買ってあげたら、きっと喜びますよ?」
「――っ!!!」
「ふふっ。それでは、私は先に雪芽達のところに行きますね。真司さんも早く来てくださいね」
そう言って、白雪は妖怪達の中に消えて行った。
「…………」
再び、ジッと簪を見つめる真司。
そして、決意が決まった真司は財布をポケットから取り出したのだった。




