大晦日の大行事-八-
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表通りは昼間には無かった出店もお店を開け始めていた。
たこ焼き屋、飴屋、小物屋、鈴カステラ屋なとが開いている。そして、提灯には狐火と鬼火が灯されていた。
「うわ~!」
真司は辺りを物珍しそうに見回す。
「あ、古本屋まであるんですね!」
「はい。そういえば、人間界でもお店を開いている妖怪がいるんですよ? 知っていましたか?」
白雪の言葉に真司が目を見開いて驚く。
「えっ?! バレないんですか?!」
「人に化けていますからね。バレたら今頃大騒ぎですよ、ふふふっ」
クスクスと笑う白雪に真司は「た、確かに……」と呟き小さく頷いた。
すると、白雪がなにかに気づいたような声を出し、真司は「え?」と、言いながら白雪を見て首を傾げた。
白雪は飴屋の前でお雪と星が立っているのを指さす。
「ほら、あそこ」
「あそこにいるの、お雪ちゃんと星くんですね」
「はい。……あらあら、雪芽ったら。よだれが垂れそうなぐらい飴を見つめて……うふふっ」
頬に手を当て苦笑する白雪。しかし、白雪の顔は何処か嬉しそうだった。
真司と白雪は、お雪達がいる飴屋へと向かう。すると、星が先に気づいたのか、星がお雪の裾をクイッと引っ張った。
それに気づいたお雪も白雪達を見つけると花のような笑顔を浮かべ、白雪達に向かって走って行った。
「おっにいちゃーん♪」
ドンッ!と、ぶつかってくるお雪。
「うっ!」
飛びつくように突進してくるお雪の頭が鳩尾に入り、真司は軽く呻く。これはもうお雪の恒例行事と化している。
「こら、雪芽。そうやって、突進するんじゃありません。もう少し軽くしないと」
(え、そこですか……?)
どこかズレている白雪の発言に、真司はそう思ってしまった。
そして、お雪を追うように星もまた肩にルナを乗せて小走りでやって来る。手には古い本を持っていた。
「それどうしたの?」
「……お手伝いをしたら……お礼に……貰った……」
ズイッと真司の目の前に本を翳す星。表紙には"竹取物語"と書かれている。
「竹取物語? あ、かぐや姫の話か。でも、少しボロボロだね」
星は黙ったまま頷いた。
「この古い感じ……好き」
「星くんは、本当に本が好きなんだね」
「……ん」
少し照れながら頷く星に真司の心は和み、つい口元が上がり微笑むような顔になった。
「ねぇー、ねぇー。私も何かほしー」と、白雪と真司の手を引っ張るお雪。
「あらあら」
「あのねぇ~、あそこの飴食べたーい♪」
「飴かぁ」
「……綺麗、だよ?」
「そうなの?」
星は黙ったまま小さく頷く。
「なら、僕も一つ買ってみようかな」
真司がそう言うと、お雪は「わーい♪」と、手を上げ喜びながら飴屋に向かっていった。真司達もその後に続き飴屋の前へと向かう。
そして、飴屋に来ると真司は呆然としながら飴細工に釘付けになっていた。
それも当然だ。何せ、目の前にいるのは一人の妖怪なのに手が無数あり、これ見事に金魚の形をした飴や猿の形をした飴などを華麗な手さばきで作っていくからだ。
(す、すごい……!)