大晦日の大行事-六-
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そして、荷物を持ってもらった白雪やお雪達と一緒に、真司は菖蒲の店に辿り着いた。
居間に行くと、たすき掛けをして珍しくポニーテールをしている菖蒲がハタキを持っていた。
「おやおや。これは大人数でのお帰りやのぉ」
「ただいまー♪」
「ただいま戻りました」
「……ただいま」
真司が菖蒲に向かって"こんにちは"と言おうとした時だった。
菖蒲が「真司、お前さんもお帰り」と言った。
真司は少しその言葉に驚いたが、微笑んでいる菖蒲を見ると自分までもが自然と笑顔になった。
本来は"来訪"なのに、真司が来ると菖蒲はこうやって"お帰り"と言ってくれる。真司はそれがどこか嬉しく思っていた。
だから、いつもの挨拶は飲み込み真司は菖蒲に向かってこう言った。
「はい。ただいま帰りました」
真司がそう言うと菖蒲は、また笑みを溢す。すると真司たちが手に持っている大きな袋をしげしげと見た。
「にしても、またお前さん達。その荷物はどうしたんじゃ? えらく多いのぉ」
「あ、これは……」
真司は商店街通りで妖怪達に色々とお裾分けしてもらったことを菖蒲に説明する。菖蒲は真司から全てを聞くと困ったような嬉しいような表情で笑っていた。
「やれやれ……ここの者達も困ったものやのぉ。気持ちは嬉しいが、さすがにその量はのぉ、ふふっ」
「ですが、これだけあれば今年はかなりの量が作れますね」
白雪がそう言うと、菖蒲は小さく頷いた。
「そうやね。さて、と。掃除も終わったし、今日から朝にかけての仕度をするかの」
「はーい♪」
「……ん」
「はい」
白雪たちが返事をすると真司は自分にも何かできないだろうか?と、思い菖蒲に手伝えることがないかどうかを尋ねた。
「あの、僕にも何か出来ることはありますか?」
「もちろんやとも。お前さんにも手伝ってもらうえ? 何せ、百鬼夜行が行われるからねぇ。ふふっ」
「はい、わかりました」
真司が笑みを浮かべ返事をすると、菖蒲はきょとんとした表情になった。
真司は何故菖蒲がそんな顔をしているのかわからず首を傾げる。
「あの……?」
「なんや、お前さん。百鬼夜行と聞いて驚かんのかえ?」
「え? ……あ」
(そういうことか)
「実は、さっき白雪さんから百鬼夜行が行われる事を聞いたんです」
菖蒲が残念そうな顔をすると、お雪のように頬を膨らませた。
「なんや、つまらんのぉ。……面白みがない」
そんな菖蒲を見て白雪と真司は苦笑する。
「して。お前さんも参加するやろ?」
白雪の言った通り菖蒲は真司の参加を求めたので、真司の頬は知らずうちに少し上がっていた。
真司は白雪を横目で一瞥すると白雪は「ね? だから、言ったでしょう?」と、言うように真司と目を合わせ微笑んでいた。
「なんじゃ、なんじゃ? 二人だけ……」
「……拗ねた」
「やきもちー!」
「ぷぷっ。こんな菖蒲姐さんが見れるとはなぁ〜」
星たちの言葉に菖蒲がさらに頬を膨らませた。
真司はそんな菖蒲の名前を呼ぶ。
「菖蒲さん」
「なんじゃ? お前さんも、おかしく思うのかえ? ふんっ!」
拗ねている菖蒲に対し、真司は笑みを浮かべると「僕も、その百鬼夜行に参加します」と、菖蒲に言ったのだった。




