大晦日の大行事-二-
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真司が、この商店街に訪れてから二ヶ月。
未だに妖怪には慣れないが、妖怪達と交流を続けているうちに少しずつだがよく知る妖怪たちとは打ち解けてきていた。
それもこれも、全て菖蒲のおかげだ。
付喪神が憑いている骨董屋を営む菖蒲。
菖蒲の骨董屋でバイトをしているが、真司はバイトというバイトをしていなかった。
どちらかというと、お手伝いさんに近いかもしれない。
菖蒲は商店街の妖怪達から尊敬され、お願い事や相談事をよくされている。真司は、主にそのお手伝いと骨董屋の掃除をしていた。
「特に働いてもいないのに、ご飯とか作ってくれるんだもんな……今さらかもしれないけど、なんだか申し訳なく思ってきた……」
そんなことを呟いていると後ろから真司の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おーーーい! 真司やないかぁ!」
「え?」
真司は後ろを振り返る。しかし、後ろには誰もいなかった。
「おかしいなぁ?」と小さく呟き首を傾げていると、下から声が聞こえてきた。
「アホか。下や下」
「下? あ、勇さん!」
「よっ!」と、右手(正確には右前足)を上げるのは猫又の勇だった。
「お久しぶりです」
「ほんまになぁ~」
「あれから、どうしていたんですか?」
「あれからか? 実はな……俺は、気づいてしもうたんや………」
腕を組み真剣に悩んでいる表情に真司は首を傾げる。すると勇がカッと目を開いた。
「俺の恋人は酒だけやと! 俺は酒を愛し、これからも酒に生きるでぇ!!」
グッと拳を空に掲げる勇に、真司は思わず苦笑する。
(よっぽど、あの失恋が痛かったんだなぁ……)
「あはは……」
「んで、お前はこれから菖蒲様の所に?」
「はい」
「ほな、ついでや。俺も着いて行くわ!」
「菖蒲さんに何か用事ですか?」
真司がそう言うと、勇は真司の足に猫パンチを食らわした。まるで鼠を狩るようなパンチに真司は「いたっ!」と言う。
(地味に痛い!)
「アホか! 今日は大晦日やぞ? 神酒が出来たから、俺は届けに来たんや!」
「ほれ」と言いながら勇は自分の背中に背負っているものを真司に見せた。
背中には紺色の風呂敷に包まれている何かが勇の背中にあった。
「それが、前に言っていた神様に捧げるお酒ですか?」
「せや。名は"清鶴"ちゅーねん。代々から伝わる酒や!」
「へぇ~」
「ほな、行こうかぁ〜」
勇が二足立ちから四足歩行に変わると、一人と一匹は再び商店街を歩き出したのだった。




