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あかしや橋のあやかし商店街① 【続編連載中】  作者: 癒月
第五幕~大晦日の大行事~
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大晦日の大行事-壱-

挿絵(By みてみん)


 木々が風で揺れ、カサカサと音を鳴らす。

 妖怪が見えるこの男ーーー宮前真司(みやまえしんじ)は、首元に巻かれているグリーンのチェック柄マフラーを少し上に上げ、ほぅと息を吐いた。

 すると、吐いた息は白くなり消えてしまった。


(今日も寒いなぁ……)


 真司は広い公園を出て足谷池の横を通る。


「あ、今日は珍しく魚釣りをしてる人がいる」


 足谷池は綺麗な池とは程遠いが、釣り好きの人間はこうやって池で魚釣りをしていた。

 もちろん、池の周りには『魚釣り禁止』という看板が掛けてある。これを守らないのも、また人間というものだ。

 真司は、そのことに少し苦笑した。


 池を過ぎると上り坂になり、両端には高い木々がある。昼間は普通に見え景色も夜になるとどこか怖い雰囲気になるのがこの道の特徴だ。

 おそらく、すぐ側には池があり、近くに小学校と公園があるからかもしれない。街灯が少ないのも理由の一つになるだろう。

 真司は坂を上りきり橋の前に着くと、辺りをキョロキョロと見回した。


(よし、誰もいない)


 念の為に、もう一度確認をすると右手首にある紅い数珠を見た。

 中心には、銀の鈴があり菖蒲しょうぶの花が彫られている。

 真司は橋を一歩渡る。橋の名前である『あかしや橋』という文字は、視界が揺れるみたいにユラリと揺れ『あやかし橋』に変わった。

 辺りが濃い霧に包まれ、先程までなかった朱色の鳥居がスーッと目の前に現れた。

 真司はその鳥居をくぐり先に進む。すると辺りの景色は一変し、猫が二足歩行で買い物をしたり、一つ目の男が河童と談笑したりしていた。

 そう。真司が今いる場所は、人間の世界ではなく妖怪の世界――つまり、妖怪だけの街の『あやかし商店街』だ。


 真司は長い前髪で目を少し隠し、あやかし商店街の中を進む。いつもは、路地裏を歩く真司だが、今回は何となく商店街の表通りを歩いてみたかった。

 それは何故かというと――今日は十二月三十一日で大晦日だからだ。


「うわ〜ぁ! すごいなぁ〜」


 前髪越しで、あやかし商店街をぐるりと見回す。辺りはお祭りみたいに提灯(ちょうちん)やしめ縄や富士山の旗等が飾られていた。

 すると、例の八百屋の山童(やまわら)が声を掛けてきた。


「およ? お前さんは、菖蒲姐(あやめねぇ)さんの所の真司やないか!」

「え、はい。どっ、どうも……」


 少しビクビクしながら真司は山童に挨拶をする。すると、山童の隣からヌッと別の妖怪が現れた。


「ほんどだべ。久しぶりだの〜」

「えっと……」


 真司は以前にも、この妖怪のことを見かけたことがある。何せ、一見達磨(だるま)なようで達磨(だるま)ではない妖怪が魚を売っているのだから。

 真司は彼の名前がわからず、なんて呼べばいいか内心困っていると、その妖怪が体を転がすように横に傾いた。


「おえ? 自己紹介しでながったべ??」

「……まぁ」


 曖昧な返事をする真司に対し、隣にいる山童は盛大に笑っていた。


「あははは!! そりゃそうや! 何せ、見かけたのは久しぶりやからなぁ〜」

「でも、菖蒲様と一緒のところは見だべ?」

「それでも、ほれ。俺らは接客があるやろ? しかも、俺は菖蒲姐(あやめねぇ)さんと話しをすると……こう、緊張するんやよなぁ〜」


 怖いものでも見たように腕を擦る山童に真司は首を傾げる。


「緊張ですか?」


(うーん。わかるような、わからないような)


 すると、例の名前のわからない妖怪が前に小さく傾いた。


「ぞれはぞうど、挨拶するべ。オラァ、木魚達磨(もくぎょだるま)いうべ」

「木魚達磨さん、ですか。僕は宮前真司です。宜しくお願いします」


(というか、やっぱり達磨なんだ)


 そんなことを思っていると、木魚達磨はまた小さく前に傾いた。


「んだ。もどは、木魚の付喪神だべ」

「え?! そうなんですか?!」


 真司は彼が達磨じゃなかったことに驚くと、木魚達磨の隣にいる山童が親指で木魚達磨を指した。


「こいつぁ、菖蒲姐さんの紹介で働いてるんや」

「んだ。オラァ、長く生きてきた。人を驚かせるのも飽きたべ。他に何かしだいべ。ぞれで、菖蒲様がここを紹介しでぐれで、オラには魚屋がええど言っべ」

「な、なるほど……」


(魚屋を勧める理由がなんか、菖蒲さんらしいというか……目に見えるなぁ)


 木魚達磨は達磨のような丸い体をし、達磨のような顔をしているが、その手は魚の鰭のように丸かった。

 達磨なのか、魚なのか、それは真司もわからず、そのどちらか片方の妖怪だと言われれば「やっぱり」と、納得してしまうものがあった。

 おそらく、菖蒲も木魚達磨の外見から魚屋を勧めたのだろうと真司は考え「あはは……」と苦笑いをしたのだった。


「ずっがり、オラの天職になったべ」

「やな! 因みに俺もや!」


 嬉しそうな顔で頷き合う山童と木魚達磨。

 すると、木魚達磨が魚が突然真司にある物を手渡した。

 真司は慌ててそれを受け取る。


「あっ、あの……これは?」


 真司は、中央に達磨の絵が描かれている白い袋の中身を見た。中にはハッポースチロールのトレイに入った白身魚がいっぱい入っていた。


「もっで帰れ。棒だらいうやづべ」

「棒だら?」


 コクリと木魚達磨は頷く。隣にいた山童も透明なビニールいっぱいに入った野菜を真司に渡した。


「ほれ、俺からもやらぁ。菖蒲姐さんによろしくな!」


 真司は貰った袋を両手に持ったまま、山童と木魚達磨に頭を下げる。


「あの……有り難うございます」


 そして、真司は再び商店街を歩き出した。

 後ろを振り返ると木魚達磨と山童が手を振っている。それを見ると、真司は気さくな妖怪達にクスリと笑ったのだった。


(いい妖怪達だなぁ)

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