恋と甘味と勝負事~仲良し~壱(終)
勝負が終わった後、豆麻と小豆はすっかり仲良しになり、手を握り合ったまま菖蒲の骨董屋へと訪れていた。
どうやら、お礼とこれまでのお詫びを兼ねた挨拶をしに来たらしい。
「本当に、有難うございます」
「菖蒲様や皆さんにもご迷惑をおかけしました……」
小豆と豆麻が頭を下げる中、白雪と菖蒲が微笑んだ。
「気にせんでもええ」
「そうですよ」
「これからは、和も洋もこだわらず、お互いの目線と考えを取り入れた菓子を作り皆に振舞いたいと思います」
「美味しいって、笑顔で言ってくれるような幸せなお菓子を作ります!」
まるで熟年夫婦のように息がぴったりな小豆と豆麻に、菖蒲が笑みをこぼす。
「二人とも、仲睦まじくするのじゃぞ」
「「はいっ!」」
そう言うと、小豆と豆麻は骨董屋を出て行ったのだった。
出ていく際、豆麻は真司にあることを言った。
「その……前は、関わるなとか言ってごめん。俺、お前のこと誤解してた。人間のくせにって思っていたのもあったけど……その……今度、店に寄ってくれ! うまい豆腐や菓子をご馳走するよ!」
真司は謝られると思わなかった。
何故かというと、そのことについてスッカリ忘れていたからである。でも、悪い気は全然無かった。
(豆麻くんのお店、か……今度、行ってみようかな)
✿―✿―✿—✿―✿
豆麻と小豆が去ると、菖蒲は白雪が淹れてくれたお茶を飲む。そして、息を小さく吐いた。
「やれやれ。やぁ~っと、この喧嘩からもおさらばじゃの」
「ふふふ、お疲れ様です」
「おつかれー♪」
「……ん」
「お疲れ様です、菖蒲さん」
白雪たちが菖蒲に労いの言葉をかける。
「しかし……やはりと言っていい程、こちらから動かなければあちらも動かなかったの~」
「そうですねぇ」
「え? それってどういう事ですか?」
真司が菖蒲に聞くと、菖蒲は真司の質問に「うむ」と、言いながら頷くと再びお茶を飲みはじめた。
「実はの、あの勝負は仕組まれているんやよ」
「え?!」
「勿論、仕組んだのは私達ですが♪」
「ふふっ」と、笑う白雪。すると、菖蒲も同様にクスクスと笑い始めた。
「え、ええっ?! でも、いつから?! そもそも一体どこからですか?!」
「うーむ。いやの。最初は、確かに普通の勝負をするつもりやったんや? しかし、途中で星が――」
「ついでに……気持ち……言ったらいい」
「とまぁ、こういうので、白雪とどうすればよいか考えてたのじゃ」
菖蒲と星の言葉に、真司が納得し頷く。
「それで、折角なのでお菓子で気持ちを伝えたらどうかと案を出したのです」
白雪が微笑みながら言うと菖蒲も小さく頷いた。
「それで、私も妙案と思い、あれに至るということやの。じゃが、結局、先にお前さんに言われたがね。ふふふ」
「むー。私、知らなかった~ぁ」
白雪の膝の上で、お餅のように頬を膨らませるお雪。
「雪芽……直ぐ喋りそう……」
「ごめんね、雪芽」
「すまんのぉ」
謝る白雪と菖蒲に、お雪は頬を膨らませる。
「むー……ぷんぷんだもん……」
菖蒲はそんなお雪を見て苦笑しながら立ち上がると、棚から醤油煎餅を取り出した。
「これで、許してもらえぬかえ?」
「…………」
お雪は黙ったままお煎餅を見ている。すると、お雪はニッコリと花のような笑みを浮かべると「いいよ♪」と、言った。
(ですよね。さすが、お雪ちゃん)
真司はお煎餅を頬張るお雪を見て苦笑した。
そして、お雪を含めた他全員もお煎餅に手をつける。
ーーバリボリ バリボリ。
部屋にお煎餅を食べる音が響き渡った
「なんだかんだあったけれど、平和ですよねぇ」
「ふふふ。まぁ、たまにはあぁいう輩もおらんとな」
「そうですね」
「お菓子を、もっともーっと、食べたかったなー」
「……僕は……もう、いい」
お煎餅の音と共にクスクスと笑う声も聞こえる骨董屋。
あやかし商店街は今日も賑やかで、そして平和であった。
(終)
next story→あやかし商店街 第五幕
[次回のあらすじ]
一年の終わりがついに始まった!
あやかし商店街は、いつもより更に賑やかでお祭り騒ぎだった。
そして、百鬼夜行を行われると同時に遂に菖蒲の正体も‥‥??
次回は、あかしや橋のあやかし商店街(五) お楽しみに。