恋と甘味と勝負事-九-
ーーその頃の白雪達。
お店の中にあるイートインスペースにて、お雪は口元にクリームを付けながらも、目の前にあるケーキをひたすら夢中になって食べていた。
「おいしー! ケーキ♪ ケーキ♪」
「こらこら、雪芽。口元にクリームが付いているわよ? あらあら〜、星ちゃんまで。ふふふ、もう」
まるで、自分達の子供の世話をするかのように、星とお雪の口元に付いてあるクリームを薄い水色の手ぬぐいで拭う白雪。
豆麻はそんな白雪たちの目の前に次々へとケーキを出していた。
「まだまだありますよ、ねぇさん達!」
「わーい♪」
「ふふふ」
「……お腹……いっぱい」
一通りのケーキを出し終えた豆麻は、前のめりになりながら白雪たちにケーキの感想を尋ねる。
「それで、今までのでどれが美味かった?!」
「私は、これー!」
「僕は……これ……」
そう言ってお雪が指した物は、苺やフルーツが沢山入っているショートケーキ。一番上には苺の他に、雪兎の砂糖菓子がちょこんと乗っているお雪らしいケーキだった。
反対に星が指した物は、チョコクリームが薔薇の形をしている、ほろ苦いダークチョコレートケーキだった。薔薇の花弁には金箔が散りばめられ、オッドアイのフランス人形のような星にピッタリのケーキだ。
豆麻はポケットから白いメモ帳と鉛筆を取り出し、お雪たちが選んだケーキをメモ帳に書き写す。
「ふむふむ……それで、白雪ねぇさんはどうです?」
「私は……うーん。ふふふ、決められないです」
微笑む白雪に、豆麻が突然ガクリと項垂れた。
そんな豆麻の様子に白雪は頬に手を当て「あらあら」と、小さく呟いた。
「ねぇさんが満足できないケーキが無いということは、俺には才能がないのか……」
「そんなことありませんよ? ねぇ、雪芽、星ちゃん」
「うん!」
「……ん」
「みっ、みんな……」
豆麻は、白雪達が座っているテーブルに自分も腰掛けとテーブルに肘をつき「はぁ……」と、深刻そうな顔で溜め息を吐いた。
「……白雪ねぇさん。俺はどうしたらいいんでしょうか……?」
「はい?」
唐突な豆麻の質問に白雪も傍にいるお雪と星も顔を見合わせ首を傾げる。そんな白雪たちの様子をチラッと見て、豆麻は話を続けた。
「小豆のことです。ねぇさんなら、既に気づいていると思ったんですが……」
「と、言いますと?」
「だから、そのぉ……」
『小豆のこと』と、豆麻が口に出した瞬間、白雪は豆麻が言いたいことが察しがつき「ふふっ」と笑う。素直になれない豆麻の口から、その言葉を直接聞きたかったのだ。
「私は、豆麻くんが言うまで何も言いませんよ?」
「うっ……白雪ねぇさんや菖蒲様には全く敵いませんよ……」
意地悪な白雪に豆麻はまたガクリと項垂れる。そして、その言葉を口に出すため、グッと拳を握った。
「だから……おっ、俺が……あああ小豆のことが……すっ、すすす好きということです……!!」
自分の想いをようやく口に出した豆麻に白雪が拍手する。
「よく言えましたね」
「っ……!!」
豆麻の顔は途端に苺のように赤くなり、豆麻は恥ずかしさのあまり俯いた。白雪はそんな豆麻の姿に困ったような顔をした。
「その言葉を小豆ちゃんにも伝えたら、喧嘩なんてしないで済みますのにねぇ」
「うぅ……」
「伝えないのですか?」
白雪の言葉に豆麻が白雪から目を逸らす。
「それは……そのぉ……」
口ごもり続ける豆麻に、白雪は両手を合わせ一つの案を豆麻に切り出した。
「では、こうしましょう」
「はい?」
「この勝負で、想いを伝えると」
「………ええええっ?!?!」
白雪の突然の言葉に豆麻は驚き、勢いよく椅子から立ち上がると慌てて首を横に振った。
「む、むむむ無理ですよ!」
「あら? どうしてですか?」
「だって、俺、あいつに嫌われてるし! も、もし、ふられたら……」
ボソリと呟く豆麻に白雪は微笑む。その微笑みに豆麻は肩を上がらせ驚いた。
(うっ……しっ、白雪ねぇさんの無言の笑みが怖い!!)
「豆麻くん」
「はっ、はい!」
慌てて返事をする豆麻に白雪は「ふふっ」と言いながら微笑む。
「その時は、その時です♪」
「当たってくだけろ~ぉ!」
「……ん」
白雪たちの言葉に、項垂れる豆麻。
「うぅ……」
(俺に拒否権は無いってことか……)
「さぁ。そうと決まれば、とっておきのケーキを作りましょう♪」
「おー!」
「……おー」
白雪たちが拳を空に掲げる中、豆麻だけは内心頭を抱えていたのだった。