恋と甘味と勝負事-二-
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居間に通されたのは、真っ直ぐ切られた前髪におかっぱ頭の女の子だった。
耳元から一房の髪が胸辺りまで流れ、髪には大きな牡丹の髪飾りが挿してある。赤色地に桜や菊・葵などの花々で飾られ扇がデザインされた着物に、帯は黒に飾り用帯締めを重ね帯留め・帯揚げ等を飾り合わせていた。
まるで、背中に大輪の花が咲いているみたいだった。
年で言うなら11~12歳辺りだろうか。
お雪よりも少し年上に見える女の子名は小豆というらしい。
「それで、小豆よ。突然どないしたのじゃ?」
「はい……」
小豆は俯き拳をギュッと握る。白雪は小豆の前に温かいお茶を置き、真司達と目を合わせるとお互い首を傾げた。
「ウチ……ウチ……っ!!」
ーーバンッ!!
小豆は炬燵の天板を叩くと目に大粒の涙を溜めて「ウチ、悔しいですっ!!」と、大きな言った。
小豆が叩いた音に真司達が驚く。炬燵の中で眠っていたルナもかなり驚いたのか、慌てて炬燵から出ると星の後ろに隠れてしまった。
「こりゃ、落ち着かんしゃい。皆が驚くやろう」
「はっ! す、すみません……」
ションボリと落ち込む小豆に、菖蒲が詳しい事情を小豆に尋ねた。
「それで、詳しい理由を聞いてもええかえ?」
「はい……」
小豆は湯呑みを手にし、温かいお茶を一口飲む。心が落ち着いたのか「ほぅ」と、小さく息を吐き、菖蒲に理由を話しだした。
「実は、今年度の売り上げも、また、あいつに負けたんです……」
「あいつ? ……あの、あいつって誰ですか?」
真司は隣に座っている白雪に、コソッ耳打ちし尋ねる。
白雪は、頬に手を当て「多分ですけど……豆腐小僧の豆麻くんのことかと」と、真司に言った。
「豆腐小僧ですか」
「小豆と豆腐……同じ"豆"でも種類も味も違う!! やから、何年も何年も勝負してきたのに……っ……なんでやっ?! なんで、毎回毎回、豆腐が勝つんや?!」
「だから、落ち着かんしゃい」
「はぁ、はぁ……す、すみません」
やれやれ、と呆れながら首を横に振る菖蒲。
小豆は悔しそうに唇を噛み締める。
「菖蒲様。ウチには、今の店をやっていける自信がもうあらへんのです……」
「おや。また弱音かえ?」
「違いますっ!! いえ……そうなんですけど……」
「毎度ながらも言っておるやろ? お前さんら、もうええ加減仲直りしんしゃいと」
すると、小豆はぷいっと顔を菖蒲から背けた。
「嫌です! それだけは嫌です!! ウチは忘れへん……あの時……ウチが小豆洗いとして半人前の時や。川で小豆を洗ってる時に現れた豆腐小僧――同じ豆の妖怪やのに会うたのは初めてやった……お互い半人前やから運命さえ感じた、の・に!! 豆の話であいつは小豆を子馬鹿にした!! きぃーーーっ、何が、大豆の方が栄養豊富やねんっ!」
バンバンッと炬燵を叩く小豆に、菖蒲は小豆の頭を軽くチョップする。
「こりゃっ、止めんかっ! 全く……お前さんは何度言うたら……はぁ……」
「はぅ〜……」
「あ、あははは……」
「あらあらぁ」
苦笑する真司達に、ずっと話しを聞いていたお雪が突然「はーい!」と、元気よく手を上げた。
その場にいた星以外全員が、お雪に注目する。




