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猫又の初恋~勇~(終)

「猫又の里ですか?」


 真司が勇に聞くと菖蒲が「うむ」と、呟き代わりに説明し始めた。


「ここと同じように、どこかに猫又だけの里があるのじゃ。そこに行けば、猫も猫又もなれると言われておる」

「老いた俺はな、何とかして猫又の里を見つけて長老様に修行を頼んだんや」

「それで、猫又に?」

「せやで。妖怪になってからは不思議と若返るようにもなったし、体も軽いし!万々歳や!!」


 袖を捲りグッと握りこぶしを作る勇。

 だが、真司には握りこぶしが見えず思わず苦笑いした。


「でも、今迄家の人に気づかれずに暮らせましたね」


 これだけ長く人と生活していれば、疑問に思う者もいるだろう。しかし、真司のその考えは菖蒲の一言で直ぐに覆ることになった。


「真司や。勇の家中(かちゅう)らは知っとるんやえ。勇が妖怪であることにの」

「え……? えぇぇぇぇ?!」


 驚きの声を上げる真司に、勇は「いやな、どーも、本人ら曰く――」と、言いなぜ勇が妖怪だと知っているのかを真司に説明した。

 勇が言うには、石井家の人達はこう言っていたらしい。


 《あまりにも長生きし過ぎているしなぁ、あはははは! 親父も、勇は普通の猫じゃないって小さい頃よう言ってたらしいし》


 《何でって……お前、昔俺の子守やらされてたやん。しかも、今では俺の娘のオムツまで変えるしなぁー。ほんま、猫のくせに器用やよなぁ》


 《え? なんで知ってるかって? あぁ、古い写真に、いつも勇が写ってたし。旦那もそういうの好きみたいだから気にしてなかったわ》


「だとさ。やから、石井家のもんは全員知っとるなぁ。後、代々言われとるらしいわ。俺は普通の猫ちゃうけど、怖がるな〜云々とな。嫁やら婿やら来る奴らも物好きばっかりやし。怖がらんで楽しんでるからな〜」


 腕を組みながら懐かしそうに頷く勇に、菖蒲は「ふふっ」と笑う。


「ちょ、ちょっと待って下さい! え?! 知っている?! み、皆さん……その……本当に勇さんの家の人達は恐がらなかったんですか? 嘘とかじゃないです、よね??」


 真司とらあまりの驚きに菖蒲はクスクスと笑った。


「本当やよ。あそこのもんは(みな)、それでも勇を家族として、また、ここまで店を繁盛させた酒の神として称えとる。それに、なぁ? 勇自身があの性格やし。誰も怖がらんさね」

「…………」


 言葉を失っている真司に勇は思い出したかのように手を叩く。


「おぉ、そうそう! 因みに、この商店街の事も菖蒲様のことも知っとるで」

「うむ。勇に会ったのは確か……明治から大正にかけてじゃったかな? それ以降、あそこの酒には御贔屓(ごひいき)にさせてもらっていてのぉ〜。あのひょろっとした坊が今じゃ立派に子孫を残して……。時が流れるのは早いの」


 頭の処理が追いつけず、真司は眼鏡を少し上げてこめかみを揉む。


(うぅ……なんだか頭が痛くなってきた)


 すると、突然、勇やルナ以外の何だか機械的な猫の鳴き声が聞こえ始めた。


 ——にゃーにゃーにゃーにゃー。


 勇は、甚平の袖口から携帯を取り出す。どうやら、猫の鳴き声は携帯の着信音だったようだ。


(いやいや! そんなことより、猫が携帯?!)


 真司が驚く中、勇は器用に爪で通話料ボタンをポチッと押す。


  「もしもし〜。おぉ、清太郎か!どないしたん?……ん? あぁ、わかったわかった〜。ほな、直ぐ戻るわぁ」

「…………猫が、携帯……」


 勇さ通話ボタンを切ると真司と菖蒲に向き直り頭を下げる。


「ほな、俺は酒蔵に戻らなあかんから、これでおいとましますわ」

「うむ。気をつけて帰るのじゃぞ」

「人間……あー、えっと……真司も有難うな」


 勇は、少し恥ずかしそうに頬をかいて真司に礼を言った。初めて名前を呼ばれたのとお礼を言われたので、同じく真司も気恥ずかしくなって頬をかく。


「い、いえ、僕は何もしてないですし……」

「いやいや、そんなことあらへんて! 引け目な考えはあかんで! ほな、白雪姐さんもお雪と星もこれで失礼しますわ」


 勇は、またお辞儀をすると四つん這いになり庭に出て颯爽と走って行った。


 お雪は少し残念そうに勇の消えていく背中を見送る。


「行っちゃったぁ………抱っこぉ……」


 白雪は「ふふっ」と笑いながら、そんなお雪の頭を撫でる。星とルナは眠いのか同時に欠伸をしていた。


「なんだか、色々あったなぁ〜」


 勇が消えて急に静かになったので、真司はボソリと呟いた。

 その呟きが聞こえたのか、菖蒲はクスクスと笑っていた。


「それは良い事じゃな。……真司や」

「はい?」


 名前を呼ばれ真司は菖蒲を見る。


「これから、まだまだ色んな出会いがある(ゆえ)、その(えにし)を断ち切ってはならんえ?」


 真司は菖蒲の言葉にポカンとすると、自分でもそう思ったのか自然と笑みを浮かべ「はいっ」と、返事をしのだった。


「恋愛がなんや! 俺は、酒に生きるでぇぇぇぇぇぇ!! にゃははははーー!!」


(終)

 next story→あかしや橋のあやかし商店街(四)


【次回】

 ついにクリスマス目前!!

 あやかし商店街は、相変わらず賑やかだが‥‥おや?どうやら、ある妖しだけ雲行きが怪しいようだ。

 次回のあかしや橋のあやかし商店街(四)は、妖し同士の甘~い対決...?!


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