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猫又の初恋~勇~ 二

 ✿-✿-✿


「ふっふ〜ん。凄いやろぉ〜、人間」


 いつの間にか近くに来た勇は自慢気に言う。そして、相変わらずルンバは何故か勇をゴミ認識していて、ひたすら吸い取ろうと勇に向かって突進していた。

 それを見た真司は「あ、もう抵抗するの諦めたんだ」と思い、内心苦笑した。


「真司、猫又のことは知っとるかえ?」

「え? ええと……尻尾が分かれていて、人に化けれるっていうことしか」

「うむ。人に化ける事が出来るのは、その者の実力と素質次第じゃな。まず、猫又には二種類の生まれ方がある」

「二種類ですか?」


 真司が首を傾げながら菖蒲に聞くと、菖蒲は猫又についての説明を始めた。


「一つは、随筆等に描かれている猫の妖怪。これも、人の想いから生まれたものやの。そしてもう一つは、人家で飼われた猫が年老いて化ける……というものじゃ」

「なら、勇さんは後者の方なんですね」

「うむ」


 勇は今までみたいに自慢気に言うのではなく、少し遠い眼差しで天井を見て昔を思い出すよう話に加わった。


「俺はな、もうかれこれ150年ちょいぐらいは生きとるわ」

「え?! ひ、150年?!?」


 真司が勇の年齢に驚くと、勇は目を閉じ昔のことを語り出す。


「俺んとこの酒蔵を設立する前に拾われたからなぁ。俺は、初代当主である清兵衞(きよべえ)の飼い猫やったんや。生まれは野良やった。喉が渇いて渇いてしゃーなかった時に、まだ酒作りして間もない清兵衞と出会って、まぁ、水と間違えて飲んでもうたんや」


 にゃははは、と自傷気味に笑う勇。

 勇は昔のことを思い出しながら話を続け、それを菖蒲たちは黙ったまま聞いていた。


「普通は匂いでわかるもんやけどな。でもな、静水みたいに澄んでて、めっちゃええ匂いがしたんや。それだけ、あいつの酒は上等やったということやな。俺自身が食わず飲まずで鼻もいかれてたから、酒って気づかんかったっていうのもあるけどな!!」


 勇はまた笑う。しかし、今度は自傷気味に笑うのではなく面白いことを思い出し可笑しそうに笑っていた。


「まぁ、酒を飲んだ俺は、当然、(むせ)るわな。それを見た清兵衞は、そら大爆笑やったわ。ん〜で、何だかんだで気に入られて、俺は石井家に住むことになったんや。俺はな、あいつの失敗するところも成功するところも、ずっと見てきた。最期の日は、俺も一緒に逝くはずやっんや。だけど、あいつは俺に言ったんや」


 手も顔も、すっかりしわくちゃに年老いてしまった清兵衛と同じく年をとってしまった猫――清兵衛が布団の上で横たわる中、勇は清兵衛の枕元で丸くなり眠る日々を送っていた。

 お互いに、命の光がいつ消えてもおかしくない状況だった。

 そんな中、清兵衛が掠れた声で勇に話した。


 《勇。お前に初めて()うた時、俺はな、お前には何かを持ってる気がしたんや。縁を感じた。それが何でかは、わからへんけどな。やから、こんな事をお前に頼むのは場違いかもしれへん。せやけど、勇……この酒蔵のことを頼んでもええか……? いや、ちゃうな。酒蔵とその後続く子孫のことを……どうか、守ってやってくれ》


 鳴く声すら上げれなくなった勇は、返事の代わりに耳を小さく動かした。

 けれど、それを清兵衛が見ていたかはわからない。清兵衛は勇に話終わると、眠るように逝ってしまったからだ。


「あの時、俺も年老いてた。ま、普通の猫にしちゃかなり長生きした方やけどなぁ」


 勇は真司のお茶を横取りし、ズズズーと音をたてながら飲む。

 お茶はぬるくなっていたのだろう。猫舌なのに何の問題なく飲んでいた。


「俺は酒蔵と石井の代を任された。せやから、俺は死ぬ事を止めて猫又の里を探して旅を始めたんや」


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